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  1. Works 1998〜2005 授業研究(高校・国語)に関する論文
 

Works 1998〜2005 授業研究(高校・国語)に関する論文

2017/05/05
Works 1998〜2005 授業研究(高校・国語)に関する論文
教員時代に、国語教育(授業研究)に関して、執筆した論文があります。主には「主題単元学習」に関するものです。よろしかったらご覧ください。


(1)高等学校国語科における主題単元の構想Ⅰ(広島大学学校教育学部紀要 第Ⅰ部第20巻<1998年1月>)

(2)高等学校国語科における主題単元の構想Ⅱ(広島大学学校教育学部紀要 第Ⅰ部第21巻<1999年1月>)

(3)高等学校国語科における主題単元の実践 (広島大学学校教育学部紀要 第Ⅰ部第22巻<2000>

(4)高等学校国語科における主題単元の実践Ⅱ(広島大学教育学部紀要 第一部<学習開発関連領域>第49号 2000)

(5)高等学校国語科における主題単元の実践Ⅲ(広島大学大学院教育学研究科紀要 第一部<学習開発関連領域>第50号 2001)

(6)「学び方」の学習ー高等学校国語科における読むことの教育の改善ー(広島大学教育学部附属教育実践総合センター 学校教育実践学研究第7巻<2001年3月>)

(7)高等学校国語科における主題単元の実践Ⅳ(広島大学大学院教育研究科紀要 第一部<学習開発関連領域>第51号 2002)

(8)『学び方」の学習Ⅱー高等学校国語科における要約指導の改善ー(広島大学教育学部附属教育実践総合センター 学校教育実践学研究第8巻<2002年3月>)

(9)高等学校国語科における主題単元の実践Ⅴー国語科主題単元(カリキュラム)から見た総合的な学習の課題ー(広島大学大学院教育研究科紀要 第一部<学習開発関連領域>第52号 2003)

(10)「学び方」の学習Ⅲー高等学校国語科における読むことの教育の改善ー(広島大学教育学部附属教育実践総合センター 学校教育実践学研究第9巻<2003年3月>)

(11)批評を生み出す評論文指導の実践(広島大学大学院教育研究科紀要 第一部<学習開発関連領域>第53号 2004)

(12)「学び方」の学習Ⅳー「課題文提示型小論文」の学習ー(広島大学教育学部附属教育実践総合センター 学校教育実践学研究第10巻<2004年3月>)

(13)読むことの能力育成ー高等学校国語科の場合ー(広島大学教育学部附属教育実践総合センター 学校教育実践学研究第11巻<2005年3月>)

はじめに—本論文の位置づけ(前年度論文との関係)・方法・目的

 

 1997年度紀要論文において、高等学校国語科における主題単元の必要性の考察及び私案を明らかにした。1998年度紀要論文では、それらを踏まえて新たに創造した単元(1998年度1学期実践)の成果と課題を通して、主題単元を成立させるための要件を考察している。

 本論稿では、まず、Ⅰにおいて、1997年度紀要論文所収の単元構想から授業検証を経て、1998年度に完成した単元一覧(カリキュラム)を掲げ、その特徴を説明する。

 さらに、Ⅱでは、1998年度実践中最も成果が上がったと考えられる、2学年における「単元 社会—職業から日本の家族や社会を考える」を取り上げ、分析と考察を加える。

 

Ⅰ 1998年度単元一覧(カリキュラム)

 1997年度紀要論文において提示したカリキュラム編成原理に大きな変更点はないが、参考までに再度掲げておく。

<カリキュラム編成原理>

①年間カリキュラムをすべて主題単元で構   成する。

 ②学習者が学ぶべき認識の対象領域を、「自己」「言葉」「社会」「自然・文化・科学」「人間(生き方)」の5領域とし、1年間で扱う主題単元数は、認識の対象領域各1、合計5つとする。

 ③認識の対象領域は、「自己」「言葉」「社会」「自然・文化・科学」「人間(生き方)」の順に取り上げる。

 ④3年間とも、その5つの認識の対象領域を同じ順序で取り上げる。その際、同じ認識領域でも、問題に対する切り込み方を変えて主題を設定し、3年間での系統性を図る。

⑤各単元で育成する言語能力の明確な位置づけをする。

 これにしたがって創造した単元一覧(カリキュラム)は次の「表1」のとおりである。

(表1)

 

 この単元一覧(カリキュラム)には次のような特性がある。

 1 教材数及びジャンル

一つの単元に付き、原則として教材は3つ用意した。(1つの教材が比較的長いものの場合、授業時間の関係上、教材数を2つにした。)それは二者の比較より三者の比較の方が、テーマに対する認識に奥行きや深みを生むことが可能であると考えたからである。また、教材の組み合わせも、文学作品と説明的文章を組み合わせることを原則とし、ジャンルが多岐に渡るよう配慮した。

 2 発達段階に基づいた「認識内容の指導目標」の設定

認識対象領域ごとに、発達段階に基づく「認識内容の指導目標」を次のように設定した。

<1 自己>

第1学年では、第二次反抗期を過ぎてはいるもののまだ完全に脱し切れていない発達段階であることを考慮して、「大人と子どもの境界」について取り上げ、「好奇心」「追求心」といった「子ども性」は大人になっても必要であることを認識する。その上で第2学年では、しなやかな自己を育んでいくために自己を個性的に捉え、意識的に自己理解する必要性を認識する。第3学年では「孤独」を正面から取り上げ、自己を育むには自己受容・自己変革のバランスを取ることが必要であることを認識する。

<2 言葉>

第1学年では、まず言葉遊びの楽しさを味わい、日常の自分自身の言葉を振り返ることで、表現の可能性を認識する。第2学年では、もう少し言葉と人間の関わりについて深く考え、言葉とは人間の認識手段であり、認識方法でもあることを認識する。そのような言葉への認識の上に立って第3学年では、どんなものからでも材を取ってイメージ豊かに表現していくことが可能であり、そういった中で言葉の使い手としての力量が培われていくことを認識する。

<3 社会>

第1学年では、「自己」との関連で、家族の中でも親子関係に焦点を当てて、家族の有りようや社会の有りようを考えると共に、親からの自立とは何かについて認識する。特に親子関係に悩んできた学習者にとって、解決の糸口となる認識が育めるよう配慮した。第2学年では 進路選択の時期にぶつけ合わせて、職業を通して自分と社会との関わりを考え、自分なりの職業観を持つことを目標とした。特に親の仕事の聞き書きを通して、親を一面的にしか見てこなかったことに気づかせ、自分自身の生活が何によって支えられているかを認識することが必要であると考えた。第3学年では、高等学校終了後の長い人生を考え、望ましいパートナーシップを模索する手がかりをつかむことを目標とした。

<4 自然・文化・科学>

近代科学の発達とその課題について考えるのに、第1学年では環境問題を考える視点として生態系循環について認識することを意図した。第2学年では「文化」について取り上げ、個人の主観下にあると思われる時間感覚・空間感覚といったものが、文化的影響を受けていることを認識し、主観と客観がどのような関係にあるのかについての認識を深める。第3学年においてこれまでの近代科学の発展と現時点での課題を認識し、今後の方向性を探る手がかりを掴むことを目標とした。

<5 人間(生き方)>

各学年の最後に、人間とは何かを考え、生き方を模索する認識対象領域を設定している。第1学年では悩みに対する対応の仕方から人間の生き方を考え、第2学年では「所有」という問題を通して、どのような生き方を選択するのかを考える。第3学年では他者との関わりを育むことで自己疎外状況からの脱却方法の手がかりを掴むことを目標とした。

 

総じて、第1学年では日常の身近なことから主題に取り組み、第2学年では自分自身に関わりつつ、もう少し広い視野に立ち、ものごとに対する認識を深められるような課題設定をした。第3学年では、明確な結論を出すことを目標とせずに、学習者各人が今後の人生での課題が設定できることを意図した。

 3 発達段階を考慮した「認識・表現方法の指導目標」の設定

各単元の各教材で「認識・表現方法の指導目標」を立てる際、3年間の発達段階を考慮して次のような点を配慮した。

(1)扱うジャンルは小説・ショートショート・詩・随想・論説・聞き書き・報道文であるが、そのジャンルのものを初めて取り上げる時には、ジャンル特性を捉える。

(2)論説・評論文・随筆等において、「論理展開・論理構造」及び「表現」についてはその作品特性に即して中心に据える項目を設定する。同様に小説や詩においても作品特性に即して重点課題を変える。

(3)前述の作品特性については、比較的容易に捉えることのできる教材を第1学年及び学年初めの単元に配置した。したがって第3学年においては比較的難易度の高いものが配置されている。但し、認識を深めるのに有効と認め、また学習活動との関連で比較的平易な教材を配置している場合もある。

このカリキュラムを「認識・表現方法の指導目標」の観点から捉えると、「表2」のとおりである。なお、「認識・表現方法」として指導すべき能力については、既に1997年度紀要論文で提示しているが、今回一覧表にまとめるにあたって「論説・評論文系統の場合」と「小説・詩系統の場合」を併記して示した。

 

(表2)

 

 4 発達段階を考慮した「学習活動」の設定

発達段階を考慮した「学習活動」を次のように設定した。

(1)疑問点を出し合い、それについての意見交換を行う「グループ討論」を数多く設定した。

(2)すべての単元に、単元のまとめとして、教材相互の比較を行い、その後「単元のまとめの文章」を書くことを課した。一学期実施の単元「自己」「言葉」については、三段落で書くこと及び段落の柱を指示したが、字数制限は設けなかった。二学期実施の単元「社会」においては800字の意見文、「自然・文化・科学」においては800字の随想、三学期実施の単元「人間」については800字の小論文を課した。文種を変えたのは、様々な文体に慣れるためである。また800字の文章を書かせたのは、形式段落と意味段落を一致させて三段落構成で書く基礎を身につけさせたかったためである。

(3)「単元のまとめの文章」以外にも単元によっては教材から学んだことを踏まえ、詩を作る、随想を書く、聞き書きを書く、という学習活動を設定した。

 

Ⅱ 1998年度実践「単元 社会—職業から日本の家族や社会を考える」

 1998年度実践中、最も成果が上がった考えられる、第2学年における「単元 社会—職業から日本の家族や社会を考える」を取り上げる。この単元は1997年度実践と同一テーマであるが、1997年度実践の課題を克服するため、教材及び学習指導の流れを変えたものである。

 

1 単元設定の趣旨

 1998年度実践と1997年度実践を比較するに当たって、両者に共通する単元設定の趣旨を掲げておきたい。

単元設定の趣旨

 「個」が前提とならない日本社会の問題を、就労の観点から捉える。経済的自立・社会的自立・精神的自立の根底となる職業を、就労形態と就労内容の両面から考え、自分にとって職業とは何を意味するかを考える。

 

2 1997年度実践の振り返り

(1) 教材、学習指導目標及び授業の流れ

 1997年度の実践の教材、学習指導目標及び授業の流れは以下のとおりである。教材特性及び単元の構造については既に1997年度紀要論文で提案している。

教材

 ①「なぜ人は仕事を…」(『寄りかかっては生きられない—男と女のパートナーシップ』千葉敦子著・光風社出版・1989年)(論説)

 ②女性の就労形態に関するデータ(『女性のデータブック第2版』井上輝子・江原由美子編・有斐閣・1995年)(『家族データブック』久武綾子他著・有斐閣・1995年)

 ③「97今華躍るひろしま—100人の女性たち」(瀬川志保美編)から各自3編

学習指導目標

 1 それぞれの教材から、仕事を通した、どのような生き方が書かれているかをつかむ

 2 自分の職業観を見つめ直す

 3 就労のあり方が、日本社会のあり方とどう関係するか考える

授業の流れ

 第1次 単元に入る前のテーマに関する設問

 第2次 教材①

 第3次 教材②

 第4次 教材③

 第5次 単元のまとめ—意見文創出

 第6次 意見文の相互批評及び自己批評、授業の振り返り(「単元 社会」の授業についての感想) 

(2)1997年度実践の成果と課題

 1997年度の「単元 社会」の実践については、既に1998年度紀要論文において、1年生の成果と課題をまとめている。その際、「教材を学習する前の、学習者のテーマに対する認識状況」と「単元のまとめとして書かれた意見文」に見られる認識状況及び「学習後の『単元 社会』の教材内容及び学習方法についての感想」を比較することで学習者の認識の変容という目的が達成できたかどうかを確認し、その原因を考察した。今回、2年生の成果と課題を考察するにあたって、同様に学習者の学習前と学習後の認識状況の比較を行うこととする。

 なお、1997年度「単元 社会」の実践は、前記のカリキュラム編成原理の④に基づいて第1学年から第3学年の各学年で行ったものであるが、学習者にとっては各学年とも初めての単元学習であり、「社会」という認識対象領域の学習も初めてのものであった。したがって、今回取り上げる2学年の発達特性はカリキュラムに即して第1学年からの学習を積み上げた結果ではない。上記の限定された条件下で捉えられる特性と問題点であることを付記しておきたい。データはすべて2年7組1クラス40名についてのものである。

  1)教材を学習する前の、学習者のテーマに対する認識状況

 学習者の学習前の認識状況は、教材に入る前に書いた「『職業を持つこと』について、いま、あなたが考えること」に見ることができる。回答数37中、仕事の目的として「生活のため」をあげた者が一番多く17名であった。しかし、それだけでは満たされないためか、「生きがいになるような仕事に就きたい」「自分に合った仕事に就きたい」という将来の職業に対する希望を挙げる者が16名いた。一方で「責任がかかるので大変」といった不安も5名見られた。

 

  2)単元のまとめとして書かれた意見文に見られる、学習者の認識状況

 3つの教材を学習した後に「自分にとって職業とは何を意味するか」をテーマに800字の意見文を書かせた。そこから読みとれる学習者の「職業観」及びその職業観を支える「根拠」に着目して、学習後の到達地点を考察する。(回答数36)

 「自分にとって職業とは何を意味するか」というテーマに正面から応えようとしたものが16名いたが、その中でごく常識的に「生活の糧を得るためと社会とのつながりからの充実感」を挙げたものが4名、自分の中で未整理であるため、挙げた項目がわかりづらいもの(「お金をもうけること+お金を使って家族を守る・自分を磨く」「充実感等得られるが、何かを犠牲にしているからこそ人生を豊かにするもの」)が2名、「自分自身を成長させる」や「人生を幸せにする」など理想的一面のみを取り上げたもの8名、昨今の就職難状況を反映して、どのような仕事に就きたいかより結果として「個人個人の能力にあった仕事」に就いていると見なすべきではないのかというものや「生きる営みの一部」として、私生活とのバランスを崩さずやっていきたいといった、少し冷めた見方をするものが2名あった。

 「職業選びに関するもの」は15名見られたが、「自分に合った生きがいとなるような仕事に就くべき」「『やりたい仕事』に就くことが大切」など、理想を追求するものばかりだった。

 「仕事への対し方に関するもの」は5名見られたが、「どんな仕事でも自分のやり方を見つけ、それに誇りを持つことが大切」という価値ある意見は1名で、残り4名は就職難状況の反映か、「生きていく(生活)ために職業を持つ」「望んでない職業でも新しい能力をそこで発見し、自分らしく生きたい」といった控えめな意見であった。

 総じて理想追求に偏った傾向にあり、教材は理想をより明確にする働きをしたものの、多面的なものの見方や認識の深まりには至らなかった。そのことは、何をその意見の根拠にしたか、という点にも見ることができる。意見の根拠として用いられたものは教材の中では教材3が最も多く8名いたが、教材以外からのもの12名、明確な根拠なしが8名という結果だった。この中で教材2を用いたものが一つもなかったことは、社会全体を視野に入れて、その中での位置づけを確認するという視点に立っていないことがうかがえる。

  3)単元学習における、学習者の教材内容及び学習方法に対する感想状況

 学習後の「単元 社会」の教材内容及びが学習方法についての感想を考察する。感想結果は次のように分類できる。(回答数34)

 

感想の分類

 A 教材内容に関するもの…28

1 実感がわかなかった…6

2 今まで自分が持っていなかった新しい知識を得た…22

①いろいろな考え方を知った—7

②自分自身でじっくり考えた—6

③自分自身の意識が問われることに気づいた—1

④社会の厳しさがわかった—1

⑤自分の考えがつかめた—6

⑥社会問題とのつながりを考えた—1

3 今後の自己の課題が見いだせた…0

B 授業方法に関するもの…6

1さまざまな教材や意見交流が面白かった…5

2意見文に点数がつけられてショックだった…1

 

 進路選択についてじっくり考えるべき時期である2年生の秋を選んで、仕組んだ単元であったが、「今は、自分の将来について考える大切な時期であるが、むずかしいのであまりじっくり考えたことがなかった」者が多く、「そろそろ進路について考える機会が多くなってきて、この授業も『職業とは』ということでタイムリーだし、ためになった」「普段、社会の中でのことを考えていなかった分、深く心に残った」(以上、学習者の感想からの引用)ものの、それ以上の深まりは見られなかった。さらに、学習を経て「実感がわかなかった」とする者は6名おり、自分の問題として捉えきれなかった結果を示している。

 

3 1998年度実践の単元構成上の工夫

 1998年度実践は、学習者に自分の問題として捉えさせきれなかった1997年度実践の反省を踏まえ、教材・学習指導の流れについて改善を加えた。特に、学習者に自分の問題として捉えさせるために「聞き書き」という学習活動を組み込んだ単元構成を構想した。

 

(1)教材特性とその意図

 1998年度実践で教材として用意したものは次のとおりである。

 

教材一覧

 ①「一人でも生きられる、でも一緒に生きられるといいね」福島瑞穂(論説)(『福島瑞穂的弁護士生活ノート』自由国民社・1998)

・補助資料1「夫に左右される女の年金」(『実践ジェンダー・フリー教育(フェミニズムを学校に)』小川真知子・森陽子編・明石書店・1998)

・補助資料2「税金について—『100万円のカベ』の意味(妻のパート収入について)」

・補助資料3「論壇」樋口恵子(朝日新聞1993年2月10日付論壇)

 ②Aガードウーマン/B肩叩き屋/Cおもちゃ修理福田洋(聞き書き)(『にっぽんの仕事型録』小学館文庫・1998)

 ③聞き書き(生徒作品)

・補助資料「ポスト・アンダーグラウンド 前書き」村上春樹(『文芸春秋』1998・4月号)

 

 それぞれの教材特性は次のとおりである。

 教材①は弁護士である筆者が離婚の担当経験を踏まえ、両性が職業も私生活も手にしてこそ豊かといえるのではないかということを1997年の国民生活白書のデータを元にして提案したものである。文章構成として「導入」部分で「一人でも生きられる。でも一緒に生きられるといいいね」という主張を提示し、その根拠として「展開」部分で1997年の国民生活白書のデータから、女性が結婚・出産のためにいったん退職しその後パートタイム労働を選ぶのと、やめないで働き続けた場合とでは6,300万円の収入差があること、また、パートタイムの女性の年間収入分布が100万円から90万円の層に極端に集中するのは税金や年金や健康保険などの制度が「世帯単位」になっているからであることなどを具体的に示している。そのことは「男性は私生活への権利を奪われ、女性は当たり前に働いて子どもを養うための賃金を得ることが奪われている」ことにつながるというのだ。「結論」部分の、税金・年金なども個人単位になって「女性が一人でも生きられるし、男性も一人で生きられる。(そのような自立した男女であって)でも一緒に生きられるといいね」との願いを込めたメッセージに両性の関わり方が示唆される。

 筆者の主張を中心にその前後の論理構成を確認し、特に「展開」部分における「データが提示される部分」「データに対する筆者の意見」「筆者の意見の根拠」を確認して、筆者の論の立て方を踏まえて筆者の主張に対する自分の意見を構築させたい。

 なお、この教材で取り上げられた女性の年金制度や配偶者控除等の税金制度、健康保険制度についての解説を「補助資料」として用意した。(補助資料については、授業時間の関係で一通り目を通すぐらいの扱いとした。)

 教材②は様々な仕事に就いている人に対する聞き書きのうち、三編を選んだものである。Aの「ガードウーマン」は百貨店で万引き等の摘発の仕事をする上での悩み(未成年を摘発するときのとまどいや迷い)など、あまり人に知られない仕事に就く女性の仕事への思いが読みとれる。Bは転職斡旋業という、どちらかというと人の好まない仕事に就く人の人生観・職業観が語られる。Cは定年退職後の第二の職として「おもちゃ修理」を生きがいとする人の話である。生活費を稼ぐことを考えなくてよいためか、もっぱら「生きがいとしての仕事」が語られる。A・Bと異なり、社会情勢の影響を受けないため、そのことについては触れられていない。

 これらの聞き書きに対しては、何がどのような観点から語られているのか、それはわかりやすい構成となっているのかを確認したい。

 教材③は学習者自身が自分の親に聞き書きしたもののうち、公開可の意思表示があったものである。高校2年生という時期の親子関係はさまざまで、親子の会話があまりない場合があることも予測したが、とかく批判的な目でしか親を見ることができない時期であることも踏まえ、聞き書きを通して親に対する見方が変化する可能性を期待した。しかし親に対する聞き書きがどうしてもできない場合も考慮に入れ、原則として親への聞き書きが望ましいが、それ以外の人でもよいとした。また、「聞き書き」対象は父・母のいずれでもよく、勤務形態(フルタイム・パートタイム)にこだわらない旨を伝えた。

 書かれた「聞き書き」には2000字というかなり長めの文章を構成するための苦労の跡が感じられる。どのようなことがらについて聞くか(観点・視点)、また、どのような構成とするかという事前準備が功を奏している。

 これら3つの教材の関連は、教材③の「聞き書き」活動を中心に据えて、「聞き書き」の内容把握と共に「聞き書き」の方法をつかませることも意図して教材②を置いている。「聞き書き」はどうしても個別の個々人の職業観・人生観が中心となるため、それに至るまでに、それらを包括しつつもそれより一段高いレベルからこれからの日本の家族や社会のあり方が模索できるよう教材①を配置した。

 さらに、1997年度教材との相違点を整理しておきたい。

 1997年度に用意した教材①は、「職業を持つことの利点」を明確に主張するものであった。筆者の主張の一つである「自分自身の人生をコントロールしているという感覚を持つことの大切さ」は明確であるだけに、それに対して自分なりの意見を形成しにくく、ただ単にこの意見に引きずられて「肯う」だけに終わってしまったのではないか、また若い女性に対して働くことの意味を考えさせることが主眼となっているため、「生活費を得る」側面が語られていないことも、理想のみに目を向けさせることにつながってしまったのではないかとも考えられる。その反省を踏まえて、1998年度の教材①には、「自立した男女が共に生きていく」ためには、どのようなあり方が望ましいのか、それには現状の何が問題なのかが就労の面から語られる教材を用意することを考えた。

 1997年度教材②はデータの読み取りを通して、女性のいわゆる「M字型就労」は日本社会特有の現象であることをつかませようとしたが、現状を踏まえてどのようなあり方を希求するかという職業観の形成にはつながっていない。このことから、データが示すことがらが現状のどのような問題につながるのかという意味づけが難しかったのではないかと考えられる。それを補うために教材③を用意したつもりであったが、理想の形を追うことには寄与しても、足下を見据えての「職業観」にはつながらなかった。

 その反省を踏まえ、1998年度の教材②にはまず、社会の厳しさがうかがえる仕事や人から嫌がられる仕事の聞き書きを配した。それだけでは不十分と考えて「生きがい」のみを理由に選択した仕事の聞き書きも加えた。しかし、その「生きがい」のみの仕事というのは定年後の生活費の心配をせずともよい状況下でのことであることも捉えさせようとした。その上で1998年度の教材③として自分の生活を支えてくれている人である親の仕事の聞き書きを課したものを交流させた。自分の生活の基盤がどのような仕事、どのような思いによって支えられているのかを見据えて、「職業」というものを見つめ直させたかったからである。

(2)学習指導の流れ

 授業の流れは、大筋では1997年度実践と重なるが、変更点をその意図と共に記述しておきたい。

  1) 学習指導目標の提示

   ア 「単元のねらい」提示

単元学習に入る前に、学習者に「単元のねらい」を提示した。それは単元名だけを示すよりも単元の目的が明らかにすることができると考えたためである。学習者に提示した「単元のねらい」は次のとおりである。

 単元のねらい

子どもの頃、「大きくなったら、何になりたい?」という問いに、あなたは何と答えただろうか。無邪気に自分の好きなものの名前をあげた頃もあっただろうし、もう少し大きくなると、自分が知っている狭い範囲の人物しか思い浮かばず、困った思い出もあるかもしれない。

いまのあなたは、同じ問いを前に何と答えるだろう。もしかすると、「何になりたい?」では既成の枠にとらわれてしまうから、「何をしたい?」という問いかけの方がいいのかもしれない。

自分は何をしたいかを考えることは、どのような職業に就き、どのような働き方をするのかを考えることにつながる。そういった就労の問題から、家族や社会と自分とのかかわりを考える手がかりをつかんでほしい。

イ 各教材の学習指導目標の提示

「単元のねらい」では単元の主題に対する理解を深めさせることが目的であった。それだけでは不十分であるので、各教材の学習指導目標については各教材のワークシートの設問を中心にして提示した。

教材①においては、「筆者の主張とその根拠がどのような論理構造の上に展開されているかをつかむこと」を中心課題に据えた。そのため、次のような設問を提示した。

ⅰ)「筆者の主張」は何か、それがどの段落に書かれているかを確認する

ⅱ)その「筆者の主張」を中心にして文章全体の論理構成をみる

ⅲ)教材の「展開」部分に着目し、「事例としてのデータ部分」「データに対する筆者の意見」「筆者の意見の理由(根拠)」を整理する

ⅳ)「筆者の主張内容と論の組み立てに対する意見」を書く

教材②においては、「語り手の職業観・人生観を軸として聞き書きの項目として何がどのような順で構成されているかをつかむ」ことを中心課題に据えた。そのための設問は次のとおりである。

ⅰ)A〜Cのそれぞれの職業観・人生観を整理する

ⅱ)前項の職業観・人生観を中心にして、書かれていることがらを確認する

ⅲ)A〜Cに共通することがらと、個別の事柄を整理する

ⅳ)聞き書きとして必要な項目を確認する

  2)教材相互の比較

各教材の学習後に「単元のまとめ」として、それぞれの教材から読みとれたことを整理しまとめる時間をとった。それは教材全体を見通す視座を持つためである。その際、すべてのワークシートを返却し、これまでの学習を振り返らせ、「仕事を通したどのような生き方が書かれていたか」という観点で教材を比較し、まとめることを指示した。うまく整理できた数人分をプリントにし、配布して全体の場で確認した。

  3)意見文の段落の柱を明示

意見文を書かせる際、段落の柱を具体的に指示した。

第一段落…単元に入る前に、テーマに関して考えていたこと(ワークシート1を参考に)

第二段落…それぞれの教材で気づいた「職業を通した生き方」の中で、取り上げたいこととその理由

第三段落…第一,第二段落のまとめとして「職業と自分」について考えたこと

これにより、一段落には一主題文という段落意識を持たせることと、学習者自身が自己の認識の変容を自覚できるようにした。

  4)「聞き書き」という学習活動を成立させるための手順

   ⅰ)「聞き書き」する項目の確認

教材②において、「A〜Cを読んで、三人のうち、あなたが一番興味を持つのはどの人ですか、また、それはなぜですか」「あなたが聞き書きする際の項目」というワークシートの設問を用意した。それは自分の興味関心の在処を明らかにし、それらを踏まえて、自分が聞き書きする際の項目を考えさせるためである。

  ⅱ)補助資料配布

補助資料として『文芸春秋』に掲載された村上春樹の「ポスト・アンダーグラウンド 前書き」を用意した。これは、筆者が1995年の地下鉄サリン事件の加害者に聞き書きである「ポスト・アンダーグラウンド」に対して、どのような視座で臨んだかについて書かれたものである。インタビューのマナーともいうべきものにも触れられていたので、それも参考になると考えた。授業時間の関係で、流し読みのみの扱いとなったが、参考にすべき点の確認は行った。

   ⅲ)「聞き書き」の事後学習

「聞き書き」としての事後指導として次の項目についてまとめ、学習の振り返りをし、ア・イをプリント一覧にして配布し、共有化を図った。

ア 「聞き書き」という体験を通して、あなたが考えたこと

イ 他の人が「聞き書き」としてまとめた文章に対する批評

ウ 「聞き書き」としてまとめた文章に対する自己批評

 

4 1998年度実践の成果と課題

 1998年度に受け持った2学年は3クラスで、3クラスとも共通してこの単元の実践を行った。この実践の成果と課題は、5組1クラスについて見ていくこととする。

 この単元は「学習者に自分の問題として捉えさせること」を課題としていたので、単元のまとめとして書いた意見文と単元終了後の「授業の評価」に見られる学習者の実態を取り上げ、その理由についての考察を行いたい。

(1)「自分にとって職業とは何を意味するか」をテーマとした意見文にみる実態

1)5組1クラス全体の傾向

①三段落構成及び「段落の柱」を指示したが、結果、三段落構成で書いた者は32名中27名であった。

②自分なりの「職業観」をつかみ、それを意見文に表現できているものをA評価としたが、それは32名中6名であった。「職業観」をつかめているものの、その根拠が弱かったり一面的であるものをA’評価としたが、それは8名であった。

③A及びA’評価以外の残り18名は、自分の考えを意見文に十分反映させることができなかった。

2)事例研究—A評価6名のうちから

優れた意見文6名分を項目ごとに整理すると次の表のようになる。(表の文言は学習者の意見文からの引用)

 

 (表3)

 

<A評価6名の実態>

  ①単元学習前の実態

教材を学習する前に、「『職業を持つこと』について、いま、あなたが考えること」に関する考えを書かせたが、前年度と大差ない結果だった。「やりたいこと、好きな仕事に就きたい」と考えているが、「生活のために嫌なことでも我慢せざるを得ない」し、周りの大人を見ていて仕事をすることに多くの夢や希望を持てず、またさらに就職難を反映しての不安が一層募る傾向にあることがうかがえた。そのことは、表の「1 学習前に考えていたこと」を見ても、6名中4名までが「生活のため」「収入を得るため」と答えていることからうかがえる。

  ②教材の学習過程で気づいた「職業を通した生き方」

多くの学習者は教材②を取り上げ、仕事には生きがいや責任感、人に喜んでもらうという喜びがあることに気づいた。さらにその生きがいや誇りというものは最初からあるものではなく辛さを乗り越え、仕事を続けていく中で育まれていくものであることに気づいた人もいた。

  ③単元学習後の実態

職業に就くのは単に生活のためでも自分のやりたいことのためでもなく、そこにいろいろな意味を含んでいること、また自分のためだけでなく社会の一員としての位置づけが生きがいを生むこと、そういった生きがいは最初から「在る」ものでなく悩みや苦労を乗り越え仕事を続ける中で培われていくものであるといった、多面的な職業に対する見方が形成された。

<A評価のうちの1名についての実態>

A評価6名のうち1名(表3の「A」)についての、学習過程の実態を示す。

①「『職業を持つこと』について、今、あなたが考えること」(教材に入る前のテーマに関する設問)に記述された内容

自分が好きなことをやって収入があれば大変に嬉しいことだと思う。しかし、なかなかそうはいかないだろう。収入のため、生きていくためには、自分はやりたくないことでもやらなくてはいけないのではないかと考える。

②教材①一読後の「筆者の主張内容と論の組み立てに対するあなたの意見」に記述された内容

「女性の自立」ということにとても関心が持てた。今の税金・年金制度は少しおかしいと思った。働く女性の方が大変なのは目に見えているのに、一番苦しい立場に置かれるというのはおかしい。早く、個人単位になればいいと思う。

論の組立の部分はよくわからなかった。特に「データに対する筆者の意見」と「筆者の意見の理由」の違いがわからない。

③教材①学習後の「筆者の主張内容と論の組み立てに対するあなたの意見」に記述された内容

私は女だから女性の立場から見た不平等なことにはとても敏感だけど、男性の立場から見た不平等な部分にも目を向けていかなければならないと強く思った。

④教材②「三人のうち、あなたが一番興味を持つのはどの人ですか、またそれはなぜですか」に記述された内容

B「肩叩き屋」に一番興味がある。一番人の人生に関わっていて、自分のサポートの仕方が「肩を叩かれた人」の新しい人生を決めてしまうという重大な仕事である。またこんなことでお金もうけするなんてC「おもちゃ修理」の人とは大違いだと思う。

⑤教材③「あなたが聞き書きする際に、付け加えたい項目」に記述された内容

仕事内容・職業観に「毎日とても大変なのに、仕事が好きだといえるのはなぜ?」「これから仕事内容に望むこと」を付け加えたい。

⑥書いた「聞き書き」(「小学校教員」6段落構成)に見る文章構成

ⅰ)挨拶から始まる一日の仕事の始まり

ⅱ)小2の担任として感じる最近の子どもたちの情緒不安定傾向

ⅲ)子どもたちの学習面での課題(集中力の不足と個別指導の必要性)

ⅳ)子どもたちが感情をコントロールできない原因(自己解決の機会の不足)

ⅴ)職業観(無力感に襲われるときもあるが生きがいもある)

ⅵ)仕事に対する誇り

子どもの実態を描写しながらそれをどのように克服しようとしているかという仕事内容を織り込み、仕事に対する思い・誇りを述べることでまとめとしている。

(2)単元学習後の「授業の評価」にみる実態

 単元学習後に授業についての評価を書かせた。その項目は以下の通りである。

 ア テーマについて(興味が持てるテーマであったかどうか)

イ 学習を経て、テーマについての自分の考えが深まったか、深まったとすればどのように深まったか

ウ その原因と考えられることは何か

 

単元学習後の授業評価

<5組1クラス40名についての結果>(回答数38)

 ア テーマについて

 ・興味が持てた…32

 <主な理由>

・将来、絶対に考えなければならないことで、不安に思っていることだった

・今までも、今からも、職業というのは人生を決める上で重要なことだし、これからの自分の進路を決めるにあたって、職業というのがキーワードになっていくと思うので

・今、自分の進路で悩むことがあるから「職業」という言葉に敏感だった。職業と家族や世の中に関係する社会に関することがテーマとされていたので、どう関係し合うのだろうと思った

 ・興味が持てなかった…6

<主な理由>

・正直言ってまだ先のことだと思って興味が持てなかった。テーマが私には大きすぎたし「職業に就く」ことの意味もあまり考えたことがなかった

・この高2の2学期という時期は、みんな進路について考える時期だと思うので、良い機会だったのではないかと思う。しかし個人的にはあまり興味が持てなかった

 イ 学習を経て、テーマについての自分の考えが深まったか、深まったとすればどのように深まったか

 ・深まった…36(うち、理由を明確に記述したもの18)

<どのように深まったか>

ⅰ)今までになかった新しい視点を得たもの…4

・現在ある職業に対する考え方の視野や将来就こうと思う職業選択の幅が広くなった

・自分の親の仕事を知ることにより職業とは一体どのようなものなのかがわかった

・今までは漠然と「仕事をする」と考えていたが、今回の単元で「その仕事は、なぜ、なんのために、誰のためにするのか」と考えるようになった

ⅱ)人間に対する理解が深まったもの…3

・今まで断片的なイメージでしかそれぞれの職業を捉えていなかったけどその人それぞれの社会観の中で誇りを持って働いているんだと思うようになった

・今までラッシュのサラリーマンは「砂の一粒」という感じで、もう毎日がただ通勤して疲れて帰って寝るだけの機械人間のようなものかと思っていたが、サラリーマンに限らずだいたいの人が自分の仕事に対して誇りや生きがいの様なものを持っているということに気づいた。そして自分は将来そういう生き方ができるだろうかと考えた

・教材①では男女の問題で税制度のことや働くという問題について考えた。教材②では仕事に対して大人に対して考えていたことと少し違うということがわかった。何よりも父に聞き書きして、父のことをいろいろ知ることができたのが良かったと思う(特に親に対する見方の変化)

ⅲ)自分なりの職業に対する考えが持てたもの…6

・仕事はやりたいことをすればいいと思っていただけだったけど、学習して「仕事を生きがいにする」ということを学んだ。そしてその生きがいは「好きな仕事に就いたからこれが生きがいになった」というのではなく、「仕事をして、違う生きがいを見つけた」という「生きがい」もあるのだと気づいた

・職業でその人の人格とか人生とかビッチリ決まってしまうわけではないが、多かれ少なかれその人の生き方や人生を色づけるものになってしまうのだということがわかった(人生における比重)

・どんな職業でも、誠意を持ってやれば生きがいにもつながるので、自分が職業に就いた時、たとえどんな職業でも、人のためを思って頑張りたいと思った。そして早く働いてみたいと思った(仕事に就くことへの展望)

ⅳ)社会との関連を見いだせたもの…5

・社会の中における仕事や自分の役割についていろいろと考えさせられた

・一人一人が気をつかうことで、社会も変えることができるし、家族との関わりも変わっていくということがわかった(概括的なもの)

・教材①で難しかったけどいろいろな制度の仕組みを自分なりに理解でき、その制度が女性にとって実は一方的に社会進出を抑圧しているものだということがわかってなんかおかしいなといろいろ考えた。教材②③では職業についてその難しさとかお金の関係、その意義など考え、教えられて、自分の中で大きなものになった(教材相互の関連について触れたもの)

・自分に合った職業を見つけるということは必ずしも自分のためだけでなく、周囲の人にもよい結果をもたらすことになるかもしれないなと思った

・働くということはそれがどんな仕事であれ誰かのためになっていて、それがたくさん集まって社会は成り立っている(社会と自己との関係に触れたもの)

 ・深まらなかった…2

 ウ その原因と考えられることは何か

 <教材名を答えたものの集計>…23

  ・教材①…1   ・教材②…9

  ・教材②と③…9 ・親への聞き書き…2

  ・教材①②③…2

<主な記述内容>

・大人は夢とか無いようで「生活のためだけに働いている」と思っていた。でも教材②や聞き書きをしたら、今までのは間違いだったのでは?と思うようになった。少なくとも聞き書きで話をしてくださった人たちは、生活のためというのもあるけど自分の仕事に誇りを持っていて、頑張っているんだなあと思った

・実際様々な職業に就いている人たちの人生観や職業観などを教材②③の聞き書きを通して詳しく知ることができた

・働くことは必ずしも趣味ではないしだからといって金儲けのためだけでもない。誇りを持ち働く人にとって、お金は自分の働いた結果を認められた一種の証であると思う

・教材①で仕事の社会的問題、女性の仕事の大変さを知り、教材②で全く違うジャンルの仕事についての考えを知って、最後の聞き書きで①や②にない親という身近な存在の仕事への生きがいなどを学べた。この3つの全く違う方向から職業—社会を見ることができたから

・いろいろな人の意見文やそれぞれの教材を読んで、こういう考え方もあるのかとか、この意見はあまり合わないなとか、これは自分と似ている等の感想が持て、人の意見を知るということによって認識が深まった

 

<A評価1名についての結果>

 ア テーマについて

正直なところ、最初は全く興味がありませんでした。しかし、親に聞き書きしたことで、このテーマを少し身近に感じるようになり、興味がわいてきました。自分の身近にあるテーマの方が興味が持てる!と思いました。

イ 学習を経て、テーマについての自分の考えが深まったか、深まったとすればどのように深まったか

テーマについての自分の考えは深まったと思う。自分の就いた仕事に誇りを持っている人は、自分の中にきっちりとした人生観・職業観を持っている人たちである。また、その人たちの多くは、自分の人生観・職業観を自分の就いた仕事の中で見つけたのではないかと思うようになった。

ウ その原因と考えられることは何か

今まで自分があまりよく知らなかった職業の聞き書きをたくさん読めたこと。そしてまた、自分の身近な人の聞き書きをしたから。

 

(3)意見文及び授業評価に対する考察

1)5組1クラス全体に関するもの

①三段落構成及び「段落の柱」を指示したため、教材学習前と学習後の自分自身の意識の比較を意識させることができ、そういった意味でほとんどの学習者が自分なりの認識の変化を自覚することができた。

②クラス40名のうち、約1/3が根拠を踏まえて意見を述べようとしたことは、教材①での「主張と根拠の関係」の学習が一定の効果があったことを示していると考えられる。

③テーマについての興味は多くの者が持てたようである。さらに「職業と家族や世の中に関係する社会に関することがテーマとされていたので、どう関係し合うのだろうと思った」というようにテーマ設定の仕方にも関心を持たせることができた。「正直なところ、最初は全く興味がなかった。しかし親に聞き書きをしたことで、興味がわいてきた」とあるので、聞き書きを中心に据えたテーマ設定は功を奏したといえる。

④学習を経て、テーマについての自分の考えが深まったとした者がほとんどであった。どのように深まったかは、次の四つに類型化できる。

ⅰ)今までになかった新しい視点を得た

ⅱ)人間に対する理解が深まった

ⅲ)自分なりの職業に対する考えが持てた

ⅳ)社会との関連を見いだせた

前年度実践では「今まで自分が持っていなかった新しい知識を得た」とする学習者が最多(22名)であったことと比して、単に知識量が増えたというのでなく「今までになかった新しい視点を得た」などものの見方に関する深まりが得られたことは大きな成果である。さらに前年度実践では見られなかった「人間に対する理解が深まり」や「社会との関連」が8名あったことは、高く評価できる。なお、認識が深まらなかったとするものの理由としては「このテーマについてまじめに考えたのは初めてで、いろいろ考えてはみたけど難しくてまとまらなかった」というのがあった。考えをまとめることができなかったとしても、考える手だては示せたのではないかと思われる。

⑤「大人が生活のためだけに働いていると思っていたのは誤りであった」など、先入観を是正して認識を深めるために、「聞き書き」や学習者同士の意見交流、教材相互の関連比較が有効であったと学習者自身評価していることは、認識方法の意識化という点で有効であったと見ることができる。

⑥意見文におけるA及びA’評価以外の残り18名は、自分の考えを意見文に十分反映させることができなかった。教材を引き写すだけで自分の意見の代用としている、教材から得た多くの意見を未消化のままで羅列するに留まっている、自分のつかみ得たことが具体的に自分の言葉で表現されていないといった傾向をそれらの典型として捉えることができる。これをどう克服させるかが今後の課題である。

2)意見文におけるA評価6名に関するもの

①「『職業と自分』について考えたこと」において、教材を通してつかみ得たことを根拠として、職業に対する考えを自分の言葉で表現できたものが6名いたことは成果と見ることができる。

②A評価をしたものは、「自分なりの職業観をつかみ、それを表現できているもの」であったが、「意見文に見られる認識の変容過程」を見る限り、「1 学習前に考えていたこと」「2 教材の学習の過程で気づいた『職業を通した生き方』」においてはクラス全体の傾向と大差ないことが判明した。「2 教材の学習の過程で気づいた『職業を通した生き方』」において、教材②を取り上げるものがほとんどであったことは、この単元における教材①の位置づけが未消化のまま終わったと考えられる。単元学習後の授業評価で、認識の深まりが生まれたのは「3つの全く違う方向から職業—社会を見ることができたからだろう」という振り返りをした者もあったのに、その視点を意見文に生かすことができなかった。いかにして、個別の職業を通してだけでなく社会全体での位置づけを把握しつつ、自己の職業観を形成させるかが今後の課題である。

3)意見文におけるA評価のうちの1名に関するもの

①「教材に入る前のテーマに関する設問」や教材②における記述をうまく生かして認識の変容がうかがえる意見文が書けていることは評価できる。

②教材②の学習を通して、自分が聞き書きする際の項目を考えさせたことは、「聞き書き」の構成に有効であった。

③単元学習後の授業評価において、考えの深まりの原因に教材②だけでなく自分の聞き書き活動も挙げていることから、直接取り上げられていなくとも意見文に反映していることがうかがえる。また「親に聞き書きしたことでテーマに対する興味がわいてきた」と答えていることから、自分の問題として捉えさせるのに学習活動として「聞き書き」非常に有効であったと評価できる。

④教材①の学習を通して、「女性の立場から見た不平等」という社会問題だけでなく、「男性の立場から見た不平等」にも気づく視点が生み出されているのに、それは意見文に反映されていない。このことは、自分の就労のあり方と就労に関する社会問題への解決がどのように関係するのかということが未消化であったことを意味している。その関係性に気づかせ、自己の職業観に反映させる手だてが今後の課題である。

⑤自己の就労問題と社会全体での位置づけを関連させるための一つの代案を提示しておきたい。教材①では社会制度の問題点の指摘と、どのようなあり方が望ましいのかという提案(=税金・年金の個人単位制度)がなされていたが、その望ましいあり方に至る道筋が示されていなかった。ゆえに、まず「今後自分自身がどのような働き方をしていくことでこの問題に取り組むか」について意見を短文で書かせ、次に教材②③の学習後に「自分にとって職業とは何を意味するか」について同様に短文で意見を書かせ、最後に「職業を持つことが日本の家族や社会のあり方とどう関係するか」というテーマで800字の意見文に取り組ませると、今回の実践よりもっと広い視野に立った職業観の形成につながるのではないか。

  

おわりに

 パラダイムの再構築が問題にされるようになって久しい。21世紀を目前に控えて、多くのシステムの見直しが必要とされているのである。世の中の急激な変化は当然のことながら21世紀に社会人となる学習者にも影響を与え、親世代とは異なった生き方を模索せざるを得ない状況にある。そのような中で、「自分も将来絶対職業について、仕事をしたいと思えるようになった」と、学習者が将来職業に就くことに対して、前向きに考えられるようになったことは大きな成果だった。

 「子どもの頃がよかった」「学生時代に帰りたい」等、よく巷で耳にするが、私自身は「責任の伴わない自由な生活」より、「少ないながらも、責任の伴う自由が存在する現在の生活」の方がいいと考えている。それは私が私であることと密接につながっているからである。

 仕事をしながらの家事・育児は正直言って辛いことも多い。しかしながら、その中でしか得られない豊かさがある。その豊かさに目を向け、困難を克服するしなやかさを育むことが授業をする際の願いであった。想いが少しでも伝わってくれればと願っている。

 今春(1999年)転勤となり、8年間勤務した学校を去った。1997年度から取り組んだ主題単元によるカリキュラムの、一応の完成を見た後の異動となった。新しい学校で、また新しい枠組みでの主題単元に取り組んでいる。引き続き、残された課題解決に努めたい。

 

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