「いやあ、もう、夫婦でいるの、限界かなって思って」
おもむろに夫君はそう言われる。
「え?」と私は思う。
…だって、もういいや、って人がカウンセリングにわざわざ足を運ばないでしょ?
その言葉の陰に隠れている、彼の心を感じようとしていると、
何か…諦めに似た悲しみ、が伝わってくる。
まあ、ね。妻から「拒否」されて、どれくらい経つのかわからないけれど、
それは…傷つく、ものよね。
そんな風に言葉を掛けると、
「あ、彼女にも、男も傷つくんやで〜って言ってるんです」
と言われる。
そうね。そんな風に茶化して、でないと、表現できない、ね。
本当に傷ついた心、は見せると自分が辛くなりそうで、
それで、茶化す。
自分でも、自分の傷ついた心には、気づかないフリをして。
そうして、なんでもないように、まるで傷ついていないかのように、振舞う。
手立て、打った?
「でも、まだ何の手立ても打ってないのに、もう結論を出すのですか?」
私は食い下がる。
彼が気づかないフリをしている、彼の傷つき、を正面から取り上げる。
「だって、結婚当初からずっと問題を抱えてきて。
合わないんです。相性が悪いんです。」
「いや、問題があること、には気づいてきたかもしれない。
それに対して、どういった手立てを打つか、の話もしないで、
取り組みもしないで、もう諦める、のですか?」
「一緒に暮らし始めて、初めて見えてくることもある。想定外のこともあるでしょう。
でも、だからといって、四角だと思ってたのに、三角だった、からといって、
詐欺だ!って責めるんですか?
自分の思ってた四角じゃないからイヤだっていうのは、
『条件付き』の愛情だった、ってことですか?」
夫君はたじろぎ、私の言葉を自分の内で反芻(はんすう)する。
その姿に、私は、とても誠実な人だな、と思う。
「わかりました。」しばらく経ってから、夫君はおもむろに口を開く。
「そうですよね。まだ、何の手立ても打ってないですよね。」
私は、にっこりする。
「そうですよ。手立てを打って、…いろいろやってみて、
それからでも遅くないでしょう? 結論を出すのは。」
長い人生、予想外のことだって、ありますよね。
病気したり、ケガしたりってこともあるかもしれない。
それでも、その都度、「軌道修正」しながら、
何がふたりにとっていい状態なのか、どんな形が無理なくやっていける形なのか、
手探りで、やっていくしかない、ところがあります。
予想外の相手、ではなく、それによって予想外の自分が引出されること、が怖い場合もある。
それでも一度は、この人とやっていこう、と思った「ご縁」のある人なんだから、
今は、その時に感じた相手の良さが、見えなくなってしまっているかもしれないけど、
「合わない」面ばかりをあげつらっている自分に気づけていない、かもしれないけど、
大きく深呼吸、して、仕切り直し、をしてみましょうか。
打つべき手立て、を一緒に考える私がついていますから。