今朝は、なんとなく気が重い。
…これから、ちょっと大きなことを始めようとしているのだけど。
うん。なんとなく。心配なんだね。
何が、ということなく。
漠然と。
この「得体の知れない」怖れをなだめるために。
長田弘の『深呼吸の必要』を開く。
だって。
私に、今必要なのは、深呼吸。
そうそう。
吐く息が大事。
カウンセリングに来られる方にも、そう伝えている。
吐く息が大事。
さて、どれを読もう?
…うん。雨の話。
「驟雨」 長田弘
突然、大粒の雨が落ちてきた。家並みのう
えの空が、にわかに低くなった。アスファル
トの通りがみるみる黝くなり、雨水が一瞬た
めらって、それから縁石に沿って勢いよく走
り出した。若い女が二人、髪をぬらして、笑
いあって駈けてきた。灰いろの猫が道を横切
って、姿を消した。自転車の少年が雨を突っ
切って、飛沫をとばして通りすぎた。
雨やどりして、きみは激しい雨脚をみつめ
ている。雨はまっすぐになり、斜めになり、
風に舞って、サーッと吹きつけてくる。黙っ
たまま、ずっと雨空をみあげていると、いつ
かこころのバケツに雨水が溜まってくるよう
だ。むかし、ギリシアの哲人はいったっけ。
(……魂はね、バケツ一杯の雨水によく似て
いるんだ……)
樹木の木の葉がしっとりと、ふしぎに明る
くなってきた。遠くと近くが、ふいにはっき
りしてきた。雨があがったのだ。
最初の「黝く」につまずく。えっと。なんて読むんだったっけ?
雨の降り始めの情景を思い浮かべる。
アスファルト。ぽつぽつと。黒くなる。
で、「くろく」と打って変換したら、…あった!
「黝く」。…でも、読めないよ、こんなの。
「雨水が一瞬ためらって、それから縁石に沿って勢いよく走り出」す。
…なんて、秀逸(しゅういつ)。
そう。なんか、雨の降り始めって、いきなりは来ないで、ぽつん、と来て、
一呼吸置いて、ざーっとくる。
その感じが、「一瞬ためらって」と。
「縁石に沿って勢いよく走り出」した雨は、みるみるうちに、アスファルトの色を変えていく。
それから。「駈ける」。
「駆ける」ではなく。辞書にはその区別は明確には説明されていないけど。
何か、「駈ける」の方は、馬が丘を疾走する感じが、する。
…どちらも「人や動物が走ること」の意で、「駆ける」が常用漢字となっているけれど。
「飛沫をとばして通りすぎた」。うん。コロナ後の今なら、大騒ぎされそうな。
「雨はまっすぐになり、斜めになり、風に舞って、サーッと吹きつけてくる。」
うん。これも。雨を眺めていたら気づく、いろんな「降り方」。
「黙ったまま、ずっと雨空をみあげていると、こころのバケツに雨水が溜まってくるようだ。」
うん? どういうこと?
ギリシアの哲人の言葉に、ますます、?が溜まってくる。
…バケツ一杯の雨水に似てるって? 魂が?
それは「恵みの雨」なんだろうか?
心が乾くと、心が渇く?
時折、水を注いであげないといけない?
「樹木の木の葉がしっとりと、ふしぎに明るくなってきた。遠くと近くが、ふいにはっきりしてきた。雨があがったのだ。」
ああ、そうだね。
一瞬、遠近もわからなくなるぐらいの驟雨にすべてを包んで。
それから。ものの姿をはっきりと浮かび上がらせる。
ものごとがクリアになる。
そんな一瞬をもたらす、雨。
雨をイメージしていたら、
いつの間にか、心が落ち着いてきた。
あ、私の心のバケツにも。
雨水が溜まった、んだね。
画像は2020年10月7日の、曇り空の下のコスモス。
コスモス園に行ったものの、光が足らなくて。
今思うと、雨水が足らなかった、のかもしれない。