「木琴」 金井 直
妹よ
今夜は雨が降っていて
お前の木琴がきけない
お前はいつも大事に木琴をかかえて
学校へ通っていたね
暗い家の中でもお前は
木琴といっしょにうたっていたね
そして よくこう言ったね
「早く街に赤や青や黄色の電灯がつくといいな」
あんなにいやがっていた戦争が
お前と木琴を焼いてしまった
妹よ
お前が地上で木琴を鳴らさなくなり
星の中で鳴らし始めてからまもなく
街は明るくなったのだよ
私のほかに誰も知らないけれど
妹よ
今夜は雨が降っていて
お前の木琴がきけない≪口語自由律の歌である。
作者は、文語や定型にとらわれない新しい形の短歌を模索している一人だ。
私自身は、短歌という表現手段を選んだからには、五七五七七の定型は守りたいと考えている。
そのリズムは、なんてことない自分の言葉に力を与えてくれる、魔法の杖のようなものだと感じているから。
口語自由詩は、この魔法の杖を使わないという、実は不自由なところから出発しているというこ とを、忘れてはならないだろう。
その上で歌になるということは、たいへんなことだと思う。
掲出歌は、私が愛誦している数少ない自由律の一つだ。
「言いあてられた」というのが、この歌を読んだときの第一印象だった。
今、自分が一人でいるということ。すべてがひらがなで書かれている。
なにかそれは、少女がぽろっと人生の真実を言葉にして 呟いてしまったような、純粋さと恐ろしさとを感じさせる表現だ。
と同時に、最後の「ふたり」という言葉にたどり着いた途端、また最初の「いつか」という言葉に戻ってゆくような、メビウスの輪のような終わりのなさをも感じさせる。「いつかふたりになるためのひとりだけれどふたりになっ たとしたらそれはやがてひとりになるためのふたりででもやがてひとりになったとしたらそれはま たいつかふたりになるためのひとり......」というように。
人生を二色にわけるとしたら、一人でいるか二人でいるか、すなわち恋愛をしている時間かそうでない時間の二色だ——そんなふうにもこの歌は読めるだろう。 希望は絶望を含み、絶望は希望へと繋がり、幸福は不幸を含み、不幸は 幸福へと繋がる。
人生において対立するかのように見えるものは、実は同 じことの表と裏なのだ——そんなふうに捉えることもできる。
小学生にもわかるようなやさしい言葉だけで書かれた歌だが、読む人の人生経験や心の状態に応じて、無限に悲しくも嬉しくも響く一首だ。
カウンセリングルーム 沙羅Sara
あなたはあなたのままで大丈夫。ひとりで悩みを抱え込まないで。
明けない夜はありません。
電話番号:090-7594-0428
所在地 : 生駒市元町2-4-20
営業時間:10:00〜19:00
定休日 :不定休