「ひとに手紙を……」 新川和江
ひとに手紙を書こうとして
書きなずんでいると
灯を慕ってか クサカゲロウがはいってきて
白いびんせんの上に とまる
うつくしい哀しみのような
みどり色の そのうすい翅(はね)
ああ わたしが告げたい思いも
そのようなもの なのだけど
クサカゲロウは文字にはなってくれず
いよいよ翅を透きとおらせて ふるわせて……
小さないのちと 大きないのちが
ひっそりと息づいている 晩夏(おそなつ)の夜
(詩集『夢のうちそと』1979年刊)
「クサカゲロウ」って、どんな虫なの? と思って、ネットで調べてみました。
ホント、薄い、透き通ったような緑色の翅が綺麗ですね。
成虫は、触れると胸の前部から臭気を出すので、「臭いカゲロウ」→「クサカゲロウ」となったそうな。ふう〜ん。
このようなモノにたとえられた「私の思い」も、とても微細なものですね。
「クサカゲロウは文字にはなってくれず」って、そりゃあ無理でしょ、と言いたいところですが、それくらい切羽詰まって、なんとかならないかしら…と思っているのですね、「書きなずん」でいる「わたし」は。
…なんで、クサカゲロウに「わたし」の気持ちを伝える文字になってもらいたいか?
それは、そのくらい繊細な姿の持ち主なら、繊細な「わたし」の気持ちをうまく言葉にしてくれそうだ、という期待からでしょう。…そんな、うまくいくものかどうかわからなくても。
「小さないのち」のクサカゲロウと、「大きないのち」の「わたし」と。
自分の気持ちを言葉にしたくて、できないでいる「わたし」と、「翅を透きとおらせて ふるわせて」いるクサカゲロウと。
この瞬間、世界はこの2つの命で覆い尽くされているのですね、…他には何も存在しないかのように、「ひっそりと息づいている 晩夏の夜」。
クサカゲロウは、この瞬間は生きてますけど、成虫となってからの寿命は3ヶ月だそうで、「晩夏」ということは、もうそろそろこのクサカゲロウの寿命も尽きる頃かもしれない。
一瞬の邂逅。
後には、きっと「書きなずん」でいた「わたし」が取り残されるのでしょうけれど。
でも、この瞬間は、一緒にいる。
そう、淋しがらなくてもいいのよ。
昔は…誰かといて楽しければ楽しいほど、それが思い出に変わるのが怖かった。
ひとり淋しく思い出すのか、と思うと、もう切なくて、苦しくて。
どのみち、ひとりなわけで。
私は私の中に帰ってくればいいだけで。
それがわかってから無用に淋しがらなくなりました。
…まあ、半世紀も生きれば、ね。そういう「ご褒美」もあるのです。
歳を重ねることで「若さ」を失うけど、そういった「安らぎ」も得られます。…いいものです。本当に。
20代のYさん。昨夜は眠れましたか?
今、苦しいでしょうけれど、でも、「こころ穏やか」に過ごせる日がきます。大丈夫。大丈夫。
画像は、朝の杏樹(アンジー)との散歩で見つけた、ご近所の素敵な門扉。
樹の枝に梟がとまっていて、扉の上には、小鳥たちがとまっています。カウンセリングルーム 沙羅Sara
あなたはあなたのままで大丈夫。ひとりで悩みを抱え込まないで。
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