個人面接と夫婦・家族合同面接の比較をするにあたって、まず、それぞれの「メリット」と「難しさ・留意点」を整理されました。それは次のとおりです。
<個人面接のメリット>
・ 目の前にいるクライエントの語りに集中することができ、観察も複雑ではない。
・ 信頼関係を築くことはさほど難しくない。
・ クライエントは家族の反応を気にしないで自由に話をすることができる。
・ セラピストは、クライエントと家族との葛藤や衝突に直接介入する必要はない。
・ クライエントと家族との境界を明確にすることができる。
・ セラピストは、自分の価値観とクライエントの価値観が違っていたとしても、クライエントに合わせて尊重することはさほど難しくはない。
<個人面接の難しさと留意点>
・ クライエントが語る家族像や家族との関係は、あくまでもそのクライエントにとっての心的現実であり、実際の人物や関係とは異なることが珍しくない。
・ クライエントと家族との実際の関係やコミュニケーション・悪循環を観察することができない。
・ クライエントと家族とのコミュニケーション・悪循環に直接介入できないので、クライエントが変化するしかない。
・ クライエントの感情や認知が変化しても、家族との関係は変わらないことがある。
・ クライエントの肯定的な変化は、家族には否定的に捉えられることがある。
・ セラピストがクライエントやパートナーとの関係に与えている影響を意識化しにくい。
① うなずきもクライエントに影響を与える。
② セラピストとクライエントが秘密を共有することによるパートナーの排除
③ 見えない三角関係に巻き込まれる危険性:セラピストが促進する離婚(therapist–assisted divorce)
いやあ…、これにはびっくり! でした。最初の「心的現実」は認識していましたが、それ以外の指摘は、ホント目から鱗、でした。特に最後の項目は、そうなのか…と、考え込んでしまいました。
<夫婦・家族合同面接のメリット>
・ 一人ひとりの言い分を公平に聴くことができ、それぞれの違いも明確になる。
・ クライエントと家族の個人としての特徴や、コミュニケーション・悪循環を直に観察することができる。
・ セッションの中で夫婦・親子の関係や葛藤に直接介入し、変化をもたらすことができる。
① 語りの少ないメンバー、パワーの弱いメンバーの自己表現の促進
② 語りすぎるメンバー、パワーの強いメンバーの聴く姿勢の促進
③ より公平な関係へ:衝突・喧嘩から対話へ
・ 複数のメンバーに同時に同じメッセージを伝えることができる。
・ 関係の中での自己理解・他者理解・関係性理解の促進
・ セラピストの関わり方が、家族と関わる時のモデルとなる。
・ 症状を抱えている個人のサポート資源として家族の理解や協力を得られやすくなる。
この中での私の発見は、「セラピストの関わり方が、家族と関わる時のモデルとなる」ということでした。…そうなんですね。セラピストは「関わり方のモデル」を体現しているのですね。…確かに。言われてみればそうなのですが、意識して考えていませんでした。
<夫婦・家族合同面接の難しさと留意点>
・ 家族全員が同じ目的・動機・意欲で来談しているとは限らない。
・ 家族と同席していることで、語りにくいことが生じる可能性がある。
・ 複数のメンバーがいるので、より複雑な観察が要求される。
・ セラピストは、セッション中に生じる家族の葛藤・衝突に対処しなければならない。
・ 葛藤状態にある家族とセラピストとの適切な距離の難しさ。
・ セラピストの価値観が家族のいずれかの価値観と似ていて他と大きく異なる時、セラピスト自身の感情的反応に気づき、その影響を適切にモニタリングしていないと、否定的な影響を及ぼす可能性がある。
・ もし、家族に内緒で一人で面接を受けに来たいと言われたら、どうしたら良いか。
「セラピストは、セッション中に生じる家族の葛藤・衝突に対処しなければならない」ことの補足説明として、「どのタイミングでとめるかか、が大事」と言われました。家族間の言い争いを、どの時点で介入してとめるか、という意味です。衝突がこれまで顕在化していなかったのなら、少し出させた方がいい、という判断もあり得るということか、と理解しました。
また、最後の項目については、「ケースバイケース」と言われながらも、「パートナーや家族にそのことを話していますか?」「どう言われましたか?」というように、パートナーや家族がそのことを了解していることを要求し、OKなら引き受ける、と言われました。特定の家族との「秘密を共有」することは、その後のセッションを続けて行く上で危険だから、ということでした。それで、「言いたくない」と言われたら、なぜか? と聞く、ということも言われました。
「セラピストの価値観が家族のいずれかの価値観と似ていて他と大きく異なる時」など、確かにそのことをうっすら意識はしていましたが、このように明確に言語化されて、問題がはっきり認識できました。
という流れから、「個人面接と合同面接の併用」(Feldman,1992)を紹介されました。
・ 対称型:合同面接と個人面接を交互に同じ頻度で実施する。
・ 非対称合同面接主導型:合同面接をより多く行い、それよりも少なく個人面接を組み入れる。
・ 非対称個人面接主導型:個人面接を主とし、合同面接を組み入れる。
印象に残ったのは、最後の先生の補足説明でした。特にパートナとのセラピーについてです。「セラピーにくるから関係を維持したいと考えているかどうかは定かではない。修復したいかどうかもわからないから、確認したくてくる場合もある。」なるほど。全くそうですね。最初からセラピストが「関係修復したいのだろう」と決めつけてはいけませんね。その辺りのクライエントの心のひだを丁寧に聴き取って行くことが必要ですね。
この後、東豊先生と野末武義先生のダブル講師によるケーススーパービジョンが行われました。これは、次回。
画像は、自宅の玄関。「Rカフェ」のまねをして、昨年、奈良に帰った時に、壁に時計を取り付けてみました。