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見えるもの・見えないもの〜鈴木ユリイカの詩「MOBILE・愛」〜

2020/11/13
見えるもの・見えないもの〜鈴木ユリイカの詩「MOBILE・愛」〜
4日前の朝。「沙羅Saraのほっと一息 詩の時間」の第10話を収録して。
第10話で紹介した「生きている貝」の作者、鈴木ユリイカが1941年生まれだと知って。
…え? もう80近いんだ! って驚いて。
彼女が詩集『MOBILE・愛』でH氏賞を受賞したのが、1885年。
その時にはもう40歳を越えていたんだ!

「生きている貝」、とても若々しい詩で。
なんだか、20代、せいぜい30代初めの詩であるように思っていた。

そうしたら、急に鈴木ユリイカの他の詩を読みたくなって、Amazonでポチッと。
彼女の全3冊の詩集を収めた現代詩文庫『鈴木ユリイカ詩集』が、昨日届いた。

第一詩集のタイトルにもなっている「MOBILE・愛」を読んでみる。

  「MOBILE・愛」   鈴木ユリイカ

 A

 その玩具はごくありふれたモビールで非常に軽い銀色
の金属片が一本の糸を中心にゆるやかに回転する仕組に
なっている。夜明けが乳色の霧を流し女を眠りから目覚
めへ目覚めから眠りへゆるやかにゆすぶる。女は白い指
で紫色の紅茶をかきまぜた。子供が目を覚ます気配がし
た。男は眠っていた。
 女はモビールを見つめた。モビールは軽やかに動いて
いた。モビールが動くたびに鳥が飛び、雨が降り、人間
の不思議な声が立ち昇った。砂漠のうねりや海の重い言
葉や遠い国の事件にもモビールは動き、太陽の六千度の
熱にもモビールが反応することに女は気づいた。
 見えないものや意識を超えているもののことを女は思
った。なぜモビールは見えていて見えないのだろう?
部屋の中で宇宙の木のようにすさまじい勢いで回転して
いるのだろうか? 宇宙の木 白い時間の実がぶつかり
合う音がする。土星の横顔が見えた 青と白のすじの帽
子 空気の微細な重なりの中で宇宙の木モビールは立っ
ていた。甘い歌を歌いながら。

 B

 私が愛について何も知らないのは何も言えないからだ。
私は感じている。あなたを愛していますと言っても言葉
は私からこぼれ落ちてしまう。
 けれどもひとりで居るときなどに見えもせず触られも
せず時間もなく、そこに在るものに向いあって半透明な
状態でそれは在ると感じる。それは動いている。私の内
部の海や音楽のうねりのように。私は〈愛〉と言ってみ
る。すると消える。
 私たちは食事をした。子供があぶなっかしい手つきで
パンにチーズをつけたものをほおばるのを見る。あなた
が珈琲をかきまわす匙の音を聴く。子供が見知らぬ人物
のように見える。私たちは海岸のまぶしい光線の中で消
えいりそうに食事しているのではないか?
 風が吹くと私たちは砂浜に何の痕跡も残さず消えてし
まうのではないか? いつからこの子供は私たちの間に
居るのか?
 私は激しく驚く。私たちは荒々しい海の波に打ち寄せ
られ恍惚となりながら上陸したのではなかったのか?
子供は私たちの線に沿って宇宙の真ン中からやってきた
のではなかったのか? おお、海がこぼさぬようにしっ
かりと抱きかかえている見えない重い地球。愛。そして、
あなたは幾日も幾日もするどい鳥となって私の海の底を
渡ったのだ。生命のガラス玉演戯。子供は私の胎内に居
るとき何もかも知っていたのだ。誕生とともに何もかも
忘れたのだ。子供は縞模様のシャツを着てしたり顔でサ
ラダを食べる。

 C
 
 世界の現象というものはいつも目に見えている。私は
街をひとりで歩く。すると街はガラスの爪で動物のよう
に私に襲いかかり、私を分析し、私を噛み砕き、私を吐
きすてる。夏の日、冬の道、豹変する数字、乾いた死の
記号。波打つ群衆。
 しかし、真実を探すのはむずかしい。私は紙のビルデ
ィングに入り、片隅のグラビア写真がひとりでめくれて
こげるのを見た。私は写真の中にひとりの子供の赤いズ
ルムケの背中を見た。被爆した子供の、瀕死のその子供
の顔は驚くほど静かで驚くほど安らかであった。私はそ
の子供が自分の息子に似ていると思った。

 D

 このように女は見えるものと見えないものの間に二重
に生きている。言葉にできるものと沈黙の間に。モビー
ルは動き続けている。
 いつかあなたも女もコップ一杯の海水になるかも知れ
ない。いつか宇宙の果ての青いしみの微生物である人間
は闇の根から透明な導管に吸いあげられるだろう。宇宙
の木の果ても知れぬ木の葉。見えない花々。宇宙の木、
それは回転する回転する。無数の時間の白い実。夜が明
ける。


モビール…ね。
ゆらゆらとバランスを取りながら、回転しながら、動く。
決まった動きはしない、のだけれど、微風でも反応して常に動き続けている、感じ。
微妙なバランス。決して、左右どちらかに偏ることは、ない。

「なぜモビールは見えていて見えないのだろう?」
不思議な問いだ。…見えていて、見えない?
見えているのは、動いているモビール。
見えないものは…どこにたどり着くか、の行く末、かもしれない。

愛し合った結果、子どもはここに存在する、のだけれど。
いったいどこから来たの? と聞きたくなるぐらい、考えだすと不思議な存在。
けれど子どもの存在は絶対的で、揺るぎない確固とした存在として、そこに君臨する。
…ああ、子どもはいつも現在形だ。
過去も未来も吹っ飛ばして、厳然として、今ここに在る。
今ここでの対応を迫ってくる。

世界中のさまざまな時間が錯綜する。
目の前の時間、以外は同時進行するさまざまな時間。

自分の内にそんなさまざまな時間を孕みながら、
モビールの揺れを見つめ続ける。


こんな印象を受けた。

画像は、11月初めに訪れた、夕刻の奈良公園・飛火野(とびひの)。
光と影…刻一刻と表情を変える地面を見ながら、一瞬を永遠に留めるためにシャッターを切るのだ、とつくづく思いました。

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