知人から渡されて、今手元に1冊の詩集があります。
童話屋から2006年に出版されている『母の詩集』。2012年に第2刷の発行です。
池下和彦という方の、「認知症の母を詠った詩集」と本の帯にあります。
「アルツハイマー型老年痴呆」と診断されたところから、最初の詩は始まります。
「約束違反」 池下和彦
平成三年秋、母はアルツハイマー老年痴呆と診断された
その医者は
母を
アルツハイマー型老年痴呆だという
今の医学ではなおらない病気だという
なおらないから老年痴呆なのだと駄目を押す
つける薬もないという
のんでも気やすめなのだと駄目を押す
そんなに駄目を押すこともないだろうに
脳が縮んで
しまいには消えてしまうのだという
からだが残って
脳が先に消えてしまうだなんて
そんなの約束違反じゃないか
「約束違反」か…と思いました。…そうね、身体は元気で、脳に問題がある、と言われても、という家族としての戸惑いがにじみ出ています。
誰に言うでもなく…、そう、神さまに文句言いたいような、戸惑いを。
…それにしても「診断」を下す医者の言葉は、「審判」を下すようです。
それでも、日々、変化していく母を見る目は優しい。
「川」 池下和彦
川を見て
母は
海
という
ぼくが少しとがめた口調で
海
とききかえすと
母は
海から流れる川といいなおした
あまりに静かなものいいだったので
それを
ふたりのあいだの真実にする
「いいなおす」「ものいい」「ふたりのあいだ」とひらがなが心に優しい。
それは違うよ、と咎めだてしたところで、それが何になろう。
平成三年に「アルツハイマー型老年痴呆」と診断されて、平成九年に81歳で亡くなった、とあるから、75歳から認知症を患っておられたことになります。
ふいにここで、私は自分が恥ずかしくなります。
昨年春に小脳梗塞を起こしてから、時折、少し母の思考の速度がゆっくりだと感じることがあって、…そうなのに、あまりそのことについて考えてこなかったことに。
「診断」はある程度、症状が出てから出されるものでしょうから、その前段階はもう少し前から、かもしれない。
私は、こんな風に、母の歩みに合わせて歩けるだろうか? と自問自答する。
真実は、「ふたりのあいだの真実」に変わっていっても何も問題はない。
…ただ、それを背負う私に心の力量がいるだけで。
母の入院中、ひとりになって、いろいろ考えてしまいます。
カウンセリングルーム 沙羅Sara
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