「湖上」 中原中也
ポツカリ月が出ましたら、
舟を浮(うか)べて出掛けませう。
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。
沖に出たらば暗いでせう、
櫂(かい)から滴垂(したた)る水の音は
昵懇(ちか)しいものに聞こえませう、
——あなたの言葉の杜切(とぎ)れ間を。
月は聴き耳立てるでせう、
すこしは降りても来るでせう、
われら接唇(くちづけ)する時に
月は頭上にあるでせう。
あなたはなほも、語るでせう、
よしないことや拗言(すねごと)や、
洩(も)らさず私は聴くでせう、
———けれど漕(こ)ぐ手はやめないで。
ポツカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう、
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。
(詩集『在りし日の歌』1938年刊)
「ポツカリ」出る月って、やっぱり満月でしょうね。
波もなく、風もなく。
まだ夕暮れのときに沖へ出て、やがて月は頭上にある。…時間の経過とともに、辺りの暗さが増してきたのでしょうか?
私とあなたしかおらず。
そして聞こえるのは「櫂から滴垂る水の音」だけ。…あなたの声以外は。
穏やかな、ふたりだけの世界。
ちゃぽんという音、微かにギギーと櫂が櫓(ろ)に擦れて軋む音まで聞こえてきます。
こんな穏やかな時間。
話される内容も、何でもいいのでしょうね。ただ、あなたの声であれば。
…と、ここまで来て、ふいに「あなた」の姿が見えなくなりました。
もしかして、二人して出掛けたのではなくて、…ひとりだった?
ひとりで月と語り合っていた? …あなたの声は頭の中で響いているだけだった?
…わからない。限りなく、孤独であるかもしれない。
いったい、どちらが本当なんだろう?
いえ、両方かもしれない。裏と表。
自分の心の在りようによって、見える世界は変わる。
軸足をどちらに置くか、で。
何を感じるかは、あなたの今の状態を如実に表します。
だから、「感じる」ことが自分を知る手がかりとなるのでしょう。
カウンセリングルーム 沙羅Sara
あなたはあなたのままで大丈夫。ひとりで悩みを抱え込まないで。
明けない夜はありません。
電話番号:090-7594-0428
所在地 : 生駒市元町2-4-20
営業時間:10:00〜19:00
定休日 :不定休