お天気のいい午後。少し、奈良公園を歩きたくなって。
アンジーを誘って、出掛ける。
ああ、いい天気!
少し、木々の葉も色づいて。
木陰で私は『深呼吸の必要』を広げる。
「公園」 長田弘
低く枝をひろげた梅の木々が、ゆるやかな
丘の斜面にひろがっている。花の季節が去る
と、日の光がつよまってくる。木々の緑が濃
くなる。明るい静けさが深くなる。微風を手
でつかめそうである。きみはベンチにすわっ
て、道すがらに買ってきた古本をめくる。梅
の木々のあいだで子どもたちは、フリスビー
に夢中だ。老人と犬が、遊歩道を上ってくる。
街のなかの丘のうえのちいさな公園だ、赤
ん坊をのせたバギーを押して、少年のような
父親と少女のような母親が、笑いあって通り
すぎる。鳩たちが舞いおりてきて、艶のある
羽根をたたむ。クックーと啼いて、ポップコ
ーンを突つき散らす。近くのような遠くで、
誰かがトロンボーンを吹いている。日曜日の
公園の午後には、永遠なんてものよりもずっ
と永くおもえる一瞬がある。
ゆるやかな斜面、の飛火野(とびひの)。
…いったい、どこからどこまでをそう呼ぶのか、定かではない、のだけれど。
遅いお昼を喫茶みりあむで取ろうとして車を走らせて、なだらかな車道沿いに飛火野の木々が色づいていることを見て取る。
食事を終えて、車はパーキングに置いたまま、アンジーと飛火野に向かう。
…ここ、久しぶり、だよね? アンジー。すっかり色づいたね。
『深呼吸の必要』の中の「公園」は、どうやら初夏に向かう、ようだけど。
目の前の飛火野は、秋真っ盛り。
詩の中の季節は「微風を手でつかめそう」な状態だけど、
飛火野は、日陰はもう肌寒い、感じ。
ーーーやはり、夏に向かうのと冬に向かうのとでは、随分趣が違うことを想う。
色づいた木々は、風に葉をそよがせ。
しゃらしゃらと、微かな水琴窟のような音を立てて、色づいた葉がそよぐ。
斜めに差した陽が、散った葉に彩りを与える。
…ああ、もう夕方。
「永遠なんてものよりもずっと永くおもえる一瞬」など、跡形もなく、
夜へと、冬へと向かう日差しの一瞬をとどめるために、シャッターを切る。
画像は、奈良公園・飛火野の秋のひとひの夕方。