朝夕、杏樹(アンジー)を連れて散歩をしていると、色とりどりの「お洋服」を着たワンコに出会います。私がアンジーに服を着せないのは、石垣りんの「着物」という詩に、昔、なるほど!と思った記憶があるからです。
「着物」 石垣りん
犬に着物をきせるのは
よいことではありません。
犬に着物をきせるのは
わるいことでもありません。
犬に着物をきせるのは
さしあたってコッケイです。
人間が着物をきることは
コッケイではありません。
古い習慣
古い歴史
人間が犬に着物をきせたとき
はじめて着物が見えてくる
着せきれない部分が見えてくる。
からだに合わせてこしらえた
合わせきれない獣(けもの)のつじつま。
そのオカシサの首に鎖をつけて
気どりながら
引かれてゆくのは人間です。 (『空をかついで』童話屋1996年刊)
アンジーが赤ちゃんの頃、ちゃんと躾をしようとゲージに寝場所作って、別の部屋で寝かせていました。ところが、父が亡くなって、ストンと落ち込んだ私のところに来て、夜、ベッドに潜り込んできた時、心弱くなっていたせいで、「ダメだよ」と追い出すことができませんでした。
それ以来、私のベッドに潜り込むのが当たり前になってしまい、私も気づけばアンジーの背中をトントンしている始末。
そのせいなのかどうか、えらく寒がりで、雨も雪も嫌いで、寒い冬の朝などはブルブル震えて「…行かなきゃダメ?」と上目遣いで私の顔を見るのです。…家のトイレシートで出来ないくせに。
母は他のワンコが暖かそうにしているのを見て、「アンジーにも買ってやりよ」と言います。かつて石垣りんの詩に共鳴した私としては、そんな節操のないことは出来ません。…母には言っていませんが。それで「私が買ってやろうか?」とまで言います。「いや、いい」と言いながら、寒そうにしているアンジーを見て、自分はコートを着ていることにだんだん負い目を感じ始めています。…いかんいかん、犬には汗腺がないんだから、それに自前の毛皮を着てるんだから、と自分に言い聞かせてたりするのです。
いつまで持つか? …アンジー、お前が老犬になったら、ママ考えるね。