関西カウンセリングセンター主催の「KSCC統合的心理療法セミナー」の午後の部は、明治学院大学心理学部の野末武義先生の講義でした。(野末先生はIPI統合的心理療法研究所にも関わっていらっしゃる方だということでした)「個人療法と夫婦・家族療法の統合」というテーマでお話しになり、「個人・夫婦・家族を理解するための5つの次元」を提示され、それぞれについて説明がありました。
「個人・夫婦・家族を理解するための5つの次元」
1 客観化可能な事実の次元〜ライフサイクル(個人&家族)の視点〜
2 個人システムの次元
① 一人ひとりを理解する
② カップルにおける非合理的思い込み
3 相互作用システムの次元〜関係性を理解する〜
4 多世代家族システムの次元
① 現在に生き続ける過去を理解する
② 破壊的権利付与(destctive entitlement)
③ 親役割代行(parentification)
5 より大きな社会システムの次元
① 社会的な文脈の理解
② ジェンダー:夫(父親)を理解し援助する難しさ
「1 客観化可能な事実の次元」とは、次のようなものです。
・ 個人の属性に関するもの(年齢・職業・教育歴・宗教など)
・ 結婚生活に関するもの(交際期間・結婚式・婚姻歴・子どもの有無・居住形態・離婚・再婚など)
・ 心身の健康状態(通院や入院など)
・ 何があったか(背景)、どのようなプロセスを経てきたか(発達と変化)、何を抱えてきたか、未解決か、今どのような状態か
・ 社会的機能(休職・頻回転職・未就職など)
それを、ライフサイクルから見ると、次の二つに分類できるというのです。
・ 状況的危機 …一部の家族しか経験しない、予測不可能な危機(家族の急死・事故・失業・災害など)
・ 発達課題的危機 …ライフサイクルの移行に伴って平均的な家族が体験する危機で、ある程度予測可能。個人のライフサイクル(エリクソン)+家族のライフサイクル(中釜他,2008)の2つの視点から見る
「2 個人システムの次元」では、まず個々人に対して、次のようなことを理解する必要性が説明されました。
・ パーソナリティスタイル(強迫性・演技性etc)
・ 感情・認知・不安
・ 自尊心・自己愛・防御機制・アタッチメントスタイル
・ 症状・問題・葛藤に対する認識の仕方
・ セラピー(セラピスト)に対するイメージ・動機づけ・期待・抵抗
・ 夫婦・親子・家族に対する価値観・思い込み
・ 親密さへの恐怖
ここで私は「親密さへの恐怖」に、少し? と思ったのですが、確か、生育過程における親との関係で、何か解決されていない問題を抱えていた場合、親密になることに対して無意識に恐怖を感じて、避ける行動を取ってしまう、というような補足説明がされたと思います。
「アタッチメントスタイル」は、エインズワース(Ainsworth)らの研究で、子どもと養育者の一時的な分離と再開というストレンジ・シチュエーション法による観察により、 乳児の アタッチメント・パターンを「安定型」「不安(アンビバレント)型」「回避型」の3つに分類したものです。親との親密度で乳児の反応パターンが変わるとされています。ここでは、それが成長後にどのような影響を及ぼしているかを取り上げているのだと私は理解しました。
「カップルにおける非合理的思い込み」とは、たとえば次のようなものです。
・ 結婚は人を孤独から解放してくれる
・ パートナーが自分のことを本当に愛しているのなら、気持ちや考えは言わなくても分かってくれるはずだ
・ パートナーとの間で葛藤はなるべく避けた方が良い
・ 夫婦であれば、言いたいことは何でも言うべきだ
・ 子育てについて夫婦で意見が食い違ったとき、どちらかが間違っている
・ 夫婦の関係が良いものになるためには、相手が変わらなければならない
・ パートナーが頼りにならないとき、子どもや実家の親に頼るのは当然だ
こういったことを頑なに思っていると「問題」になってくるというのです。「違うこと」が問題なのでなく、「違うことをどのように夫婦で共有できていくかが大切」と野末先生はおっしゃいました。なお、「察してくれて然るべき」というのは、何も日本文化特有のものではなく、カップルセラピーが生まれたアメリカにもあるとのことです。そこでも、「お互いの弱い(=悲しみ、怒り)感情を、どう上手く表現して受け入れられるか」が扱われている、とのことでした。
まとめ始めると長くなってきたので、一旦、ここで置きます。続きは、明日。(東豊先生のが長くなり過ぎた反省を踏まえて。)
画像は、3月11日にお誕生日を迎えた広島の友人に送った、プリザーブドフラワー。震災以降、お誕生日が素直に祝えなくなってしまった、と悲しんでいたので。(震災以前に生まれているものね、それはそれ、とお祝いに。)