「風」 丸山 薫
繁みの中で一と声、牛が鳴く。
枝が一斉に打ち消すやうにそよいで、たちまち静かになる。
繁みの中で一と声、牛が鳴く。
枝が一斉に打ち消すやうにどよめいて、まちまちに笑ひ痴ける。
繁みの中で一と声、牛が鳴く。
枝がまちまちにさざめいて、やがて一斉に笑ひ崩れる。
繁みの中で一と声、牛が鳴く。
と、枝はまちまちにさざめいて、さざめきはそのまま枝にかくれる
かくれてゐたさざめきが一斉に枝を揺つて笑ひ出した。
その笑ひに重ねてもう一と声、牛が鳴く。
(『丸山薫詩集』現代詩文庫1036・思潮社・1989年刊)
牛の鳴き声と、風のそよぎと…。穏やかな田園風景です。
属している世界は揺らぎませんね。
なんせ、木々の葉が「笑って」いるのですものね。
風が、木々の葉の笑いをもたらすほどに、穏やかな世界です。
昔、広島に移って半年経った頃、秋の訪れとともに心の調子を崩して、一切の「音」がうるさく聞こえて、テレビが見られなくなったことがあります。
高台に建ったマンションの一室に居て、海が見えて、瀬戸内海に浮かぶ小さな島も見えて、遠くに水平線も見えて、それはそれは素晴らしい眺めであったのですが、病んだ私のなんの慰めにもならなかった。
唯一心を穏やかにしてくれたのは、マンション全戸に設置されていた「ユーセン」の「田園、牛、虫」という音。
チョロチョロと流れる水の音をバックに、時折牛が「もおー」と鳴く。
そして、そううるさくなく、虫の声が聞こえてくる。…そのうちまた牛が鳴く…という繰り返し。
病んでいる時には、水の音がいい、というのを後で聞きました。
子宮の中にいて、羊水に包まれていた頃のことを思い出すのでしょうか?
そしたら、脈を打つ「心音」もいいのかもしれませんね。
…そういえば、赤ちゃんが泣きやまない時用に、「心音の入ったオルゴールメロディー」とかいうのもあったような…。
不安に駆られる気持ちを穏やかにするのは、「守られていた」記憶なのですね。
杏樹(アンジー)も、淋しくなると身をすり寄せてきます。
大丈夫だよ、というように、背中をとんとんしてやります。
牛が鳴き、風が渡る…
心がざわざわとざわめく時には、こういった世界を思い出すのもいいかもしれませんね。
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