ゲシュタルトの流れ(つづき)
・私たちは1935年のゲシュタルトセラピーを冷凍保存しておきたくはない。その状況に合わせて、場に合わせて、場の変化に合わせて、常に進化していくもの。それが発展というもの。状況が変われば、自己調整が何か、ということも変わっていく。
・マラソンを走っている時には、走り終わった時には大きく息を吸うのが、自己調整にすごく役立つ。でも海に飛び込んで海中にいる時に、大きく息をしたら死んでしまう。こっちの状況においては、大きく息を吸うことは自己調整になる、でも別な状況においては大きく息を吸うことが自殺につながってしまう。大事なのは、状況。その状況にどう合うか、ということ。
・だから文化を変えようということは私たちはしない。あるいはみんなを同じにしようとすることも、私たちはしない。ただ、その人がその人の環境の中での自分の自己調整を発見していく、その手助けをしていく。
・変化や、調整や、バランスを取っていくということは、決して終わりがないもの。
・たとえば、日本の教えられているゲシュタルト、それはパールズが椅子やエンプティーチェアを使って、たくさんの実験をしていた頃にゲシュタルトを学んだ人が教えてきたもの。その当時は、カリフォルニア・サンフランシスコで、春だった。そのサンフランシスコの春のようなもので、サンフランシスコの全体ではない。
・2年後には、パールズはエンプティーチェアではなく、現象学に焦点を移していた。また2年後には、もはや現象学ではなく、対話に焦点を移していた。セラピーも、より大きな状況に合わせた自己調整をしていく必要がある。「ホメオスタシス」とは異なる「ホメオリシス」
・このようなプロセスを表現する、あまり使われていない英語の表現がある。「ホメオリシス」という言葉。
・「ホメオスタシス」というのは、もともとの設定されたポイントに戻る、というもの。日本では「恒常性」と訳される。それは機械的なシステムのための言葉。たとえば、エアコンを20℃に設定しておくのとか。室温が上がったときに、エアコンが自動的にオンになって、また室温が20℃に戻るように、というもの。あるいは室温が下がりすぎたら、今度は暖かい風が吹いてきて、また室温を20℃に戻す、とか。このホメオスタシス、恒常性というものは、機械的なシステムにおいては、とても役立つもの。
・ホメオリシスというのは、生きているシステムに対して使われるもの。生物学的なシステムに使われるもの。それは、設定されたポイントに戻すのではなく、軌道に戻す。その環境に合った、自己調整の軌道に戻す。生物学的なシステムにおいては、その環境における自己調整のところに戻していく。昨日の自分と同じところに戻すのではなく。
・場所ではなく、方向性。自己調整の理論もまた、やはり生き物。その理論が、今生きているこの状況の中で役に立つものであれば、生きているものに有用なもの。でもその状況が変わっていったら、その状況が変わったのに、前にうまくいっていた理論を引き続き使ってしまうと、もはや合わないものになってしまう。
・それは、性格のようなもの。個々人の人となりのようなもので、そのあり方はその当時の自己調整にとっては役に立つものであったけれども、それが固着してしまうと、状況が変わったのに、そこに対する対応の仕方は同じというふうになってしまう。
・個々人のレベルでも、理論的なレベルでも、同じことが言える。状況の中での自己調整をしてくためには、動きとバランスが必要。(これ、今日、言うことになるだろうな、と思ってました。笑)
・「ホメオリシス」は新しい言葉。しかし、1941年に作られた言葉。(皆さんが生まれる前。私はもう生まれていた。)この言葉が作られる以前は、メカニカルなシステムににも、生きているシステムにも、「ホメオスタシス」の方が使われていた。かつてはこういうホメオスタシスもあれば、ああいうホメオスタシスもある、みたいに言われていた。その後、ホメオスタシスとホメオリシスという言葉に分けられるようになった。実際にはすごく違ったものなので。
・1つは設定されたポイントに戻るものだし、こちらがホメオスタシス。同じ場所に戻るというのがホメオスタシス。そして、ホメオリシスの方は、同じプロセスに戻る。同じ場所に戻るのではなく。
<質問①> ホメオスタシスは体温が上がったらまた平熱に戻っていく、ようなバランスを取る機能だと思うが、そこでゼロポイントに戻る、たとえばウイルスが入ってきた時に、体温を上げてウイルスを消滅させて、また平熱に戻る、とか。
・同じ、その平熱の範囲に戻ってくる、同じ場所に戻ってくる、という意味では、ホメオスタシス。だが、その場所に戻るために何をしなければいけないかという観点で見ると、ホメオリシス。でもすごく面白い質問。私もこの後少し考えてみたい。体温って、生物に関するものではある。ありがとう。いい考える種を貰いました。
<質問②> ホメオリシスというのは、環境に合った状態に戻る、ということか? たとえば、サケが海から河川に帰ってくる、というそんなイメージを持つが。
・体温にせよ、サケにせよ、戻っていくのは場所。ちょっとそこはまだ考えて調べてみないと、と私は感じています。場所に戻っていく、という点では、ホメオスタシス的な感じもするけれども、でも機械的なシステムではないし。生きているものだから、ホメオリシスと言いたいところなんだけれども、でも戻るのは今の例だと、場所なので。そう言う意味ではホメオスタシスになるのかなという気もするし。
<質問②-2> 環境に合った生理的状態っていうと、どうなるか?
・そうですね。37℃とか。体温でいうと。
<質問③> フリッツ・パールズは、エンプティーチェアを使って、対話はあまりやらなかったと日本で聞いたことがあるが、そうじゃないようで、実験をしていた、と言われたことに、そうかと思った。エンプティーチェアの実験をやっていて、何年後かに現象学とか対話に戻った、というのは、エンプティーチェアに何か問題を感じた、実験をしたけど問題を感じた、ということか?
・エンプティーチェアに問題があったから、というわけではなく、とにかくあれこれ試して実験をしていた。一番役に立つのは何なのか、ということを見いだすために。特定の状況における違いに気づきを持つ、その点でエンプティーチェアは役に立つ。たとえば、自分と誰かの間の状況とか。あるいは、自分の中の二つの異なるパーツの間の違いとか。だから、たくさんの情報を与えてくれるものではあるが、その情報をどのように処理するかということには、向かない。そこに目を向けるためには向かない。
・「未完了のビジネス」「未完了のことがら」とフリッツが呼んだことに対しては、すごく役に立つんだと思う。未完了のゲシュタルトに関しては。その「完了」を自分がどういうふうに妨げているのか、という部分を見るには向かない。そしてその自分のキャラクターにまつわる問題を見るのには向かない。つまり、自分の固定されたもの見方とか感じ方とか、自分の固まってしまっている反応の仕方を見るには、向かない。その2つが自己調整を妨げている。キャラクターが自己調整を妨げている。そして、気づきというのは、キャラクターの召使い、下僕。
<質問④> 1年前にレズニックさんが日本に来たときに、リン・ジェイコブのある主張に対して、同意できないと言ったが、それは、このホメオスタシスとホメオリシスに関して、違う考えを持っているということだったのか?
・リンが今のホメオスタシスとホメオリシスの違いについて、どう考えているかというということは、私は知らない。きっと違うことについて言ってたんでしょうね、その時は。彼女に関しては、たくさん同意できないことがあるので。彼女は精神分析家。そして力動的な精神分析的なワークの指向を持っている。私はもっとプロセスの方に興味を持っているので。私と彼女とではゲシュタルトセラピーでも、それぞれ違う団体。
<質問⑤> ホメオスタシスとホメオリシスの違いについて。私はホメオスタシスは自己調整機能だと思っていた。今のお話だと、ホメオリシスは自分がその戻るということよりも、どのように戻るかというプロセスをお話されている気がしていて、レズニックさんがそれを話したということは、ゲシュタルトにおいては、そのホメオリシスのプロセス、どのようにそこに戻るかというところに着目するといいという観点で話されたのか?
・そうだ。
<質問⑥> ホメオリシスが少し分かりづらくて。同じプロセスに戻る目的はまず、やはり生存のため? (私の質問)
・そうだ。ホメオリシスは、自己調整に戻るのだが、それは特定の場所ではない。ホメオスタシスの場合には、毎回同じ特定の場所に戻る。だが、ホメオリシスの方は、疲れれば寝るし、十分な休息が得られれば起きる。寝るのも起きるのもどっちも自己調整。それぞれ違うけれども。ホメオスタシスは同じところに戻るので、いつも寝てばかりか、いつも起きてばかりか、になる。
<質問⑥-2> そうすると、ホメオリシスの方が環境の変化、状況の変化に意識的である、意識的であることが必要という、そういう自分のあり方も指向するということか?
・そうだ。今の環境はどうなのかな、今の自分はどうなのかな、ということに気づいて、この状況における自分の自己調整は何なのかな、それは別の状況においては違うものだろうということに気づいていたり、ということ。ここ、とても重要な部分なので、皆さん、積極的に関わってきてくださって、嬉しいです。私は、典型的な日本人のように、礼儀正しいタイプではないので。
設定されたポイントに戻すのではなく、「軌道」に戻す。それは言い換えると、「同じ場所」ではなく、「同じプロセス」に戻る、ということ。
という解説に、はっとした。
そうか。ゲシュタルトの流れを話されたのも、「環境の変化」「状況の変化」に対応する、ということの伏線だったか。
体温の話やサケの例が質問で出され、レズニックさんは「いい考える種」を貰った、と言われたけど。
うーん。確かに。「生物的なシステムはホメオリシス」であるならば、この場合は「場所」に戻る、という意味で、ホメオスタシスとの違いが明白にならない。
でも私は、「意識」の有無が、体温調整にはないように思う。
ウイルスを撃退するために体温を上げる、というのは免疫機能で。自律神経等の問題なのではないか。
そこに意識は介在しない。
サケの川戻りも。
ホメオリシスが働くのは、人の「意識」が介在する場合なのではないか。
環境の変化、状況の変化を感知し、「今の」自分の生存に何が必要かを探る。
「状況に合わせて必要なものを探る」というのがホメオリシスのシステムならば、
そういった「同じプロセスに戻る」というのも、わかる気がする。
…そういう意味で、やはり「気づき」に戻るのですね。
…まだまだ、ワーク3、4、SVの解説が残っているのだけれど。
今回はここまで。
画像は、いつぞや連れていったドッグランで、聞き耳を立てるアンジー。
え? なになに。…そう、このアンジーと同じように、「ホメオリシス」に聴き耳を立てました。カウンセリングルーム 沙羅Sara
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