ちょっと変わったビジュアルブック。「あさ」の表紙から読むと絵本、「朝」の表紙から読むと詩集、という体裁です。
絵本側は、「だれよりもはやく めをさますのは そら」から始まり、「おひさまのてがふれると よるははずかしがって あかくなる」と続きます。夜明けの一瞬一瞬を、刻々と変わる、その色合いを留めた写真とともに、「朝の進行」を描写していきます。
詩集側は、谷川俊太郎の朝の詩のオンパレード。まずは「朝 1」という詩から始まります。
「朝 1」
朝は曇りたり
雲厚く過ぎたる夜を隠せり
かくして今日もはじまりぬと
幼い希(のぞ)みは呟くのだがーー
始まるに時なく所なし
私が生き
私が日日を殺してゆく
ただ心のみをあふれさせて
私はあふれる心を信ずる
その無意味な涙を私は信ずる
不安や証しについて何ひとつ知らぬままに
朝は曇
万象 未だ夜を残して黙する中に
心あふれたり貧しきものの心あふれたり (初出『六十二のソネット』東京創元社)
引き続き、中学校の教科書教材にもなった「朝のリレー」。
「朝のリレー」
カムチャッカの若者が
きりんの夢を見ているとき
メキシコの娘は
朝もやの中でバスを待っている
ニューヨークの少女が
ほほえみながら寝がえりをうつとき
ローマの少年は
柱頭(ちゅうとう)を染める朝陽にウインクする
この地球では
いつもどこかで朝がはじまっている
ぼくらは朝をリレーするのだ
経度から経度へと
そうしていわば交替で地球を守る
寝る前のひととき耳をすますと
どこか遠くで目覚まし時計のベルが鳴ってる
それはあなたの送った朝を
誰かがしっかりと受け止めた証拠なのだ (初出『谷川俊太郎詩集』(日本の詩人17)河出書房)
アリス館から2004年初版で発行されたものですが、2011年の第27刷版が手元にあります。奈良の友人からのお誕生日プレゼントでした。