「猫」 佐伯祥
夕暮れにひょいと見失った僕の影が
そのまま行方知れずなので捨て置くわけにもいかず
夜のアスファルトを
足音を忍ばせて歩いた。
たしか今夜は月齢14.5だったと思うのだが
例のしらじらとした光線が射さない
影を失くした僕としては
人に見咎められないで済むから都合のいいことなんだけど
闇夜というのはどうも元気が出ない
それとも影の奴が僕から離れてほっつき歩いているせいか。
そう いつもは月のエナジーを受けて僕の影が踊り出すのだ
それでも見る人が見ればわかってしまう
僕の影のないことは。
なぜなら一歩踏み出すごとに僕の躰はふわり宙に浮くように
きっかり15度 前へ傾いてしまう。
この前 影が失くなった時に この現象を楽しんでいたら
「君、影がないじゃないか!」
などと大声で叫ぶ人がいて その声に人がぞくぞく湧いて出て
「一体ぜんたい、こんな科学的根拠のない現象を
どうして引き起こしたりしたのだ」
「責任をどうとるつもりだ」
と口々に詰め寄られて
僕としても何が原因でこんなことになったのか
皆目見当もつかないから 目を白黒させるだけで
そうこうするうち あやうく撲滅されそうになって
すんでのところで逃げ出した
何も影のない人間がいたからといって 痛くもかゆくもないはず
と思うのだけど
だから僕は足音を忍ばせ なるだけ跳びはねないようにして
歩いた
ふと目の前をかすめたものがある
ちいさなさんかく山二つ ピンと垂直に切り立ったアンテナ
猫だ
あの気取った歩き方は
れ? 目が光らない
じゃあれは 影か
猫の影
じゃれあってる 何と?
あ 僕の影だ—と思う間もなく猫の影が
スリッと跳んだ
屋根をひょいひょいと飛び越え 僕の部屋辺りでふいと消えた
部屋のノブを回すと猫の鳴き声のように聞こえたのは
勝手に上がり込んでた彼女の「おかえり」だった
本格的に影を見失い途方に暮れかけてた僕の目に映ったのは
ベッドに腰掛け 片膝を抱え込んで一心にマニキュアを塗る
彼女の
ちいさなさんかく山二つの
影
この詩はどんな風にして生まれたっけ…? と、思い出そうとしましたが、なんせ大学4年か卒業したぐらいの頃の、遥か昔で、あまり覚えてない…。
ただ…「ベッドに腰掛け 片膝を抱え込んで一心にマニキュアを塗る」妹を見て、生まれた気がする…。
安部公房か何か、シュールレアリズムの影響も受けた、かしら?
いつも付いてくる「影」が、意思を持って行動し始めたらどうなるのかなあと思ったのと、多分…「みんな同じでなければ」の圧力を過剰に感じていたので、毎日が息苦しかったんだと思います。
この頃から月を見上げるのが好きで、「月のエナジー」を浴びるようにして歩いていたのは、20代の私です。
20代の私は、とんとおしゃれに興味なく…化粧も二十歳の時に1年間ぐらい頑張っただけで、あとはほとんどすっぴんでした。日焼け止めと口紅を塗るくらいで。…あ、それは今も変わりないか…。
犬も可愛いけど、時折猫の自由さ、気まぐれがいいなあと思うこと、あります。
そんなときはきっと、自分自身が何か、「〜ねばならない」で縛られているとき、かもしれません。
自分を縛り付けているものは、案外、自分の思い込み、かれしれませんよ。
夜、猫が塀の上を散歩するように、気ままに歩く方法がないか、探してみましょうよ。
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