講義が終わって最後は、事例報告、それに対して講師お二人からのコメントをいただく、という「W講師によるケーススーパービジョン」となりました。
今回は「自己コントロールに困難さを抱えるASD(自閉症スペクトラム)児への行動支援」というタイトルで、病院にお勤めの臨床心理士の報告がされました。
対象児Aは当時小学4年生。支援学級在籍ですが、国語と算数のみ支援学級に抽出しての指導で、他の時間はクラス児童と一緒に授業を受ける、という状態。
病院に来られた時の相談内容は、「弟の行動態度が自分の意に沿わないと過剰に反応し乱暴するので、その低減を図りたい」ということと、「2年生の頃から『死にたい』『生まれて来なければよかった』とネガティブな発言が増え、自分への失望感や罪責感を募らせているので、その苦悩を和らげたい」ということ。
家族の状況は、父、母、A、弟(年中)の4人家族。共働き。
父は何かにつけ、Aを注意しがちで、Aは反発。
父の親族には障害特性に対する理解を得られにくく、「母親だからなんとかしろ」としつけを責めるような態度を示されるため、母は家族内外で針のむしろ。
対応経過は、1〜2ヶ月に1回(50分)の母親面談。A本人は、医療に対する強い不信感から一度も来院せず。
事例報告は、小学校4年5月から5年6月までの10回の母親面談でのこと。
発表者は、まず、母に、Aの行動を「環境との相互作用」という枠組みから捉え直す視点の有用性を伝えた。
次に、「問題の行動が起こった時刻(場面状況)を毎日記録することを依頼し、Aの問題行動の生起状況を洗い出した。
そして、(園児である)「弟に対する行動支援の枠組み」を作って、Aの弟との「衝突」を回避する取り組みを行った。
「弟に対する行動支援の枠組み」とはAがイライラした様相を見せる時には不用意に近づかず、別の部屋で過ごすように、母が弟に合図を送る、Aに対する要求や困り感がある時は、まず母に伝えるようにする、など。
弟が望ましい行動(母に解決を委ねる、Aを無視して相手にしない)が取れた時には、母から「GoodJob!」のサインやポイントカード(トークンシステム)が貰えるなどの「楽しみな活動」が貰えるようにし、対応を工夫しても望ましくない行動が起こってしまった時には、母が2人を引き離す等の手立てを講じての取り組み手順を決めた。
Aと弟の衝突が減り、Aに母や弟の努力を認める発言が現れ、A自身も自分の頑張りを認める発言が出だし…と、とてもいい流れが生まれたなあと感心して聞かせていただいていたのですが、村瀬嘉代子先生のコメントで、あ、と思いました。
先生は、Aが一度も、来院してこの報告者に会っていない点を重視されて、「自分の在り方に重大な相談がされている場に本人がいないというのはどうなのか」「本人が自分のことで相談されて、その取り組み計画に関わっていないというのは、操作。」「小学校4年なら、もう自分の在り方を考えられる年齢」「操作されることによって変えられるのは疑問」と言われたのです。
先生は続けて、「来院しないのなら、この子にわかるような言葉で、手紙を送る方法もある。小学3年生でも可能では?」と言われました。
つまりは、「人の自尊心をどう傷つけないでやっていけるか」「本人の主体性をどう育てていくか」を問題にされたのです。
…ショックでした。私は、主体性の育成や自尊心の尊重を考えてきたはずなのに、どこか、小学生なら、ましてや発達障害を抱えているなら、仕方ないか、と思ったのだと思います。
幼いなら幼いなりの、そして障害を抱えていても、それに対する「手立て」を講じる必要はあるかもしれませんが、最初から「難しいだろう」「無理だろう」と決めつけて「自尊心」や「主体性」を育む視点を持たないでいることは不遜なこと。
本当に…、とてもショックを受けました。
でもまあ、報告者の報告は途中経過だったので、これから、A本人とどう関わっていくかの視点とされる旨の発言がされました。
会が終わって、報告者にとてもいいご報告でしたと労い、「これからの、本人との直接的な関わりは、この実践に足していかれたらいいことですよね?」と申し上げました。報告者も、「そうです。そう考えています」と言われました。
本当にとても有意義な時間でした。
画像は2日前の、朝の杏樹との散歩で見かけたご近所の薔薇。雨上がりで、ちょっと雨の雫が素敵でした。