長田弘の詩
初詣のたのしみは真夜中の自由〜長田弘の詩「初詣」(『深呼吸の必要』所収「大きな木」から)〜
2021/01/07
2021年のお正月も終わった。
続き
まだ「松の内」(関西では15日)ではあるけれど。
今日は七日。「七草粥」の日だ。
せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ。
あ、言えた!
それから、おもむろに『深呼吸の必要』を開く。
今朝は…やっぱり「初詣」。
「初詣」 長田弘
冷たい風がゆっくりと鐘の音をめぐらして
いる。遠く、電車の走ってゆく音が聴こえる。
家々のあいだを折れてゆく道に、親しげな人
の声がひびく。もう夜半をすぎたのに、あた
りの気配のどこかに、まだ日暮れてまもない
ような騒がしさがある。くろぐろとした屋根
がつづくむこうに、夜の街の空が明るい。す
べて遠くのものが近くかんじられる。
おおきな闇をつくっているおおきな夜の樹
の下をとおってゆく。篝り火の焚かれたちい
さな境内につづく石段を上る。手に破魔矢を
もったジーンズの娘と若者が、石段の途中に
坐って、星を算えている。初詣のたのしみは、
真夜中の自由。絵馬。土鈴。護符。木の枝に
きっちり畳んでむすばれたおみくじ。ごくさ
さやかなもの、むなしいけれど、むなしさに
あたいするだけのいくらかの、ひそかな希望
を質すための。
あなたはあなたのままで大丈夫。ひとりで悩みを抱え込まないで。